[ オピニオン ]
(2017/11/2 05:00)
紅葉は人を山にいざなう。富山県の立山連峰では今の季節、山頂付近の積雪と、中腹から麓(ふもと)にかけての紅葉を同時に楽しめる。ただ、富山の見どころは山だけではない。
北前船の港町だった富山市岩瀬地区と富山駅北側を結ぶ富岩(ふがん)運河。そこを運航する観光船「富岩水上ライン」が、就航から8年余りで総乗船客25万人を達成した。乗客は年々増え、2017年の年間客数は過去最高となる見通しだ。
運河を掘削した発端は、そばを流れる神通川の存在である。市中心部を蛇行し、たびたび氾濫したこの川の直線化工事は大正期に完成した。だが旧流路だった広大な廃川地(はいせんち)が都市の発展に障害となる。そこで運河を掘る土で廃川地を埋め、水運と新市街地を得る都市開発を進めた。
1935年の完成後は沿岸に工場が建ち並び、資材運搬の役目を担った。高度成長期にその役目をトラックに譲った今は遊覧客を運ぶ。運河の船だまりを整備した富岩運河環水公園は、16年度の利用者が157万人に上る観光地になった。
河川工事で生まれ、物流、観光と用途が変遷した軌跡は、山々が発する急流の治水・利水が命題だった富山の歴史を凝縮する。業態転換で時代に適応する様は企業経営にも通じるだろう。
(2017/11/2 05:00)