[ ロボット ]
(2017/11/28 09:30)
労働人口の減少で各社攻勢
人手不足などを背景に世界で工場の自動化や省人化に伴う産業用ロボットの需要が拡大している。一方、製造業全体に占めるロボットの導入台数はまだ数%とされ、工場では自動化が難しい領域が多く存在する。ロボットメーカー各社は人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)など新たな技術を取り込み、熟練作業の自動化や生産性の向上などによりロボットを活用する場を広げている。世界で労働人口の減少が見込まれるなか、ロボット業界への期待はさらに高まることになりそうだ。
ロボット導入余地は大きい
「ロボットの導入が最も進む製造業でも、だいたい作業者100人当たり1台のロボットが使われている状況で、利用率はあまり高くない」。2020年に開かれるロボットの国際競技会・展示会『ワールド・ロボット・サミット』(WRS)の諮問会議委員で、ロボットに詳しいカリフォルニア大学サンディエゴ校のヘンリック・クリステンセン教授は現状をこう指摘する。国際ロボット連盟(IFR)によると、自動化が進んでいると言われる日本でも利用実態は1万人当たり300台程度に留まるという。高齢化社会への対応が世界の課題となるなか、多品種少量品の生産や人が感覚を使って作業する組み立て工程など、これまでロボットの導入が難しかった領域の自動化が求められている。
「ロボットの適用範囲を広げて労働人口の減少に応えたい」(川崎重工業の橋本康彦常務執行役員)。同社はAIやIoTを活用し、これまでロボットの導入が難しかった熟練作業も自動化できるロボットシステム「サクセサー」を開発した。産業用ロボットを遠隔で操作できる専用装置で、熟練者が感覚を使って作業する組み立てなどを実演する。遠隔操作装置はその動きを作業データとして蓄積する一方、そのデータをAIで学習する。何度も繰り返す中でAIが学習して作業精度を高め、最終的に人が遠隔操作せずに自動で作業できるようにする。
感触や音からも学習
サクセサーの遠隔操作装置は、触覚や聴覚など動作時の感覚をフィードバックする機能がある。この機能により熟練者の技でも感覚的に作業を覚えさせることができる。例えば、自動車のシートをロボットで搬送して車体に取り付ける工程にサクセサーを導入する場合、熟練者が遠隔操作装置で実際の作業を実施。その作業からシートが所定の位置にはまる感触や音を含めて作業データとしてこの装置に蓄積する。操作を繰り返すなかで、作業者が一品ごとに異なるシートの取り付け位置のズレをどのように克服しているかなどの技能をAIが学習する。この学習効果により作業精度を自動化が可能な水準まで高める。
川重はサクセサーを2018年度に自社に導入するほか一部顧客にも提供し、2019年度の販売開始を予定する。人手不足による自動化需要への対応や技能伝承などでの活用も見込む。
導入支援へメンテ負担軽減
ロボットの導入を広げるためには、メンテナンスの負担軽減など扱いやすさも重要になる。10月に工場用IoT基盤(プラットフォーム)「フィールド・システム」の運用を始めたファナック。同システムは工場内のあらゆる機器やセンサーをネットワークでつないでデータを収集分析し、生産性の向上や高度な故障予知などを実現できる。例えば、ロボットの予防保全では、主要部品となる減速機の稼働データを収集する。AIで正常な動きをしている時の波形を学習し、異常時の波形と比較することで、異常が起きる兆候を数週間前に検出する。人が見分けることがほぼ不可能な早い段階で正常と異常との波形の違いを検出するため、1、2週間程度の猶予を持ってロボットを修理できる。現在は1万台以上のロボットを実際につないでおり、「ほぼ100%、事前に察知することに成功している」(ファナックの稲葉善治会長)。
スイスのABBは複数のロボットの稼働状況を遠隔で監視し、メンテナンスの効率化などを提案する「ABB Abilityコネクテッドサービス」を展開する。同じ工程に5台の多関節ロボットを導入した場合、アーム(腕)の向きや位置が異なれば各関節にかかる負荷に違いが出るケースがある。仮に2番目のロボットが最も早く故障した場合、監視データからどこの関節の負荷が大きかったかを分析し、ロボットの作業姿勢の変更などを提案する。また故障時に遠隔でプログラムを書き換えることも可能で、稼働状況の監視だけに留まらないサービスを展開する。
安川電機はロボットやサーボモーターなどから得られる稼働データを活用し、顧客の製造現場の生産性向上などを支援する事業「アイキューブメカトロニクス」に乗り出す。IoTで集めた稼働データをAIで解析するなどして、効率的なメンテナンスや品質の向上など最適な生産システムを提案する。労働人口の減少でロボットへの期待が高まるなか、AIやIoTを活用してロボットをより扱いやすくする取り組みも重要になりそうだ。
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