[ オピニオン ]
(2017/12/8 05:00)
国際ビジネス都市・東京にもローカルな産業がある。例えば、出版と印刷。明治期に大学や研究機関が多く立地したことで、新産業が生まれた。
“都の西北”の城西地域に、大小の出版社をはじめ関連企業が集積する。最も都心側の本の街・神田神保町が、いわば販売担当。都心に向けて流れる神田川沿いの低地に、印刷工場や書籍倉庫が軒を連ねる。
新宿区の牛込地区は、そんな印刷の街の代表といえる。文豪・夏目漱石が生まれた江戸末期には田んぼばかりだった早稲田一帯は、その後の出版業の隆盛につれて、インクの匂いと製本の音が似合う住工混在の都市型工場街として発展した。
バブル崩壊後、少なからぬ工場がオフィスビルや高級マンションに姿を変えた。出版社と隣接する必要が薄れたのだろう。近年の書籍電子化の進展が、さらに印刷需要の減退に拍車をかける。
日本書籍出版協会などは、業界総本山として親しまれてきた牛込神楽坂近くの「日本出版クラブ会館」を閉鎖し、2018年中に神保町に移転する。出版は生き残っても、地場産業としての印刷は、廃れるのかもしれない。9日は101回目の漱石忌。牛込で生涯を閉じた永遠のベストセラー作家は何を思うだろうか。
(2017/12/8 05:00)