[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/再挑戦する「ふゆのロケット」、宇宙をもっと身近なものに

(2018/1/30 05:00)

昨年1月、本欄に「ふゆのロケット」と題した記事を掲載した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「SS-520」ロケット4号機の失敗を、マンガ「なつのロケット」(1999年、あさりよしとお作)に比べて考察したもの。原文はこのリンクからご覧頂きたい。

この記事は「経産省はもう一度、JAXAにチャンスをあげられないか。真剣に遊ぶ大人たちは、次は必ず成功してくれるに違いない」と結んだ。その願いが通じたのかどうか、無事に予算がついた。JAXAは「SS-520」ロケット5号機を2月3日午後に内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)から打ち上げる。

当初は昨年12月末の打ち上げを予定していたが、直前に延期を発表した。JAXAにとって基幹ロケットではないとはいえ、2度連続の失敗はさすがに許されない。慎重に1カ月の延期を決断したことは、むしろ成功へのプラス材料と受け止めたい。

「SS-520」のことを復習しておけば、3段式で直径52センチメートル、長さは10メートル弱。実際に目にすれば大きく感じるだろうが、もともとは大気観測などの用途を想定した2段式ロケットだ。それに3段目を加えて改良し、地球周回軌道まで超小型の人工衛星を打ち上げる。5号機に搭載する「TRICOM-1R」は重さ3キログラム。成功すれば、世界最小の衛星打ち上げシステムとなる。

宇宙空間は非情なまでに物理法則に支配されているから、頑張ればたどり着けるというものではない。マンガ「なつのロケット」で小学生らが挑戦するのは全長3メートル弱という極小サイズのロケットで、搭載衛星の重さは100グラム。鶏卵2個分ほどだ。確かに最小の打ち上げシステムだろうが、これでは何らかの役割を衛星に求めるのは不可能に近い。

「SS-520」の打ち上げ能力があれば、搭載衛星にもある程度の科学的・工学的成果を期待できる。何より魅力は、その安さだ。

日本の基幹ロケット「H2A」の打ち上げ費用は、1回100億円前後。その半減を目標とする「H3」の開発が進んでいる。「H2A」より小型の「イプシロン」ロケットは30億円台が目標。いずれも打ち上げ能力は「SS-520」とはケタ違いだ。ただ「SS-520」が2億-3億円ですむとなれば、やはり魅力。篤志家を募れば、個人のグループでも宇宙に手が届きそうに思える。

日本のロケット打ち上げは一時期の失敗の連続で、マスコミの一員ですら祈るような思いで見守った。今や世界に冠たる信頼を勝ち取った。世界最小の打ち上げシステムは、宇宙への近さを内外にアピールする。成功を信じて、当日を待ちたい。

(加藤正史)

(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)

(2018/1/30 05:00)

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