[ オピニオン ]
(2018/5/17 05:00)
『草紙洗小町』は、人気がある能の演目の一つだ。歌合で小野小町に勝ち目がないと思った大伴黒主が、事前に小町の歌を盗み聞いて万葉集にその歌を書き足し、既存の歌だと主張するも、小町がその草紙を水洗いして本来の歌を示し、潔白を証明する。
上村松園が描いた小町の顔に怒りはない。しかし、はらりと肩に落ちる一筋の髪から黒主に迫る緊迫感が伝わってくる。ぶざまな小細工をした黒主が恥じ入る様が目に浮かぶ。
松園自身、男性ばかりの日本画壇で女流画家の道を切り開いた。70年前の1948年、女性として初めて文化勲章を受章し、美人画の大家という地位を確立した。
ただ、自身の著書によると、男性社会の中で、絵筆一本で家族を養うまでには、相当な苦労があったようだ。そのせいか、描く女性は総じて清らかな美しさだけでなく強さを兼ね備えている。代表作『序の舞』は、凜(りん)とした立ち姿が印象的。松園も「私の理想の女性の最高のもの」と語っていた。
今、女性の地位は向上したかに見える。しかし、このところのセクハラ問題をみると男性にも女性にも男女平等が根付いているとはいえない。性別に関係なく能力と結果で評価する―そんな社会こそ日本を強くする。
(2018/5/17 05:00)