[ オピニオン ]
(2018/6/4 05:00)
感染症といえば古くは結核やコレラ。近年ではインフルエンザやエイズ。いずれも「遠ざけておけば発症しない」というイメージだが、そうとは限らないことを経験した▼風邪気味で熱っぽいと感じた翌日、高熱とともに頬(ほお)が腫れ上がり、その範囲が時間を追うごとに広がっていく。鎮痛剤でごまかしていたが、次の日には目を明けにくいほどに▼診断は「丹毒」という古風な病気。外傷がなくても免疫力低下で発症するという。処方は、これまた古典的なペニシリン。点滴を受け、経口薬をもらって半日後には熱が引き、3日目には腫れもなくなった。劇的な効果に驚いた▼ペニシリンは第2次世界大戦で多くの兵士を感染症から救い、発見者である英国のフレミング博士らは終戦直後の1945年にノーベル医学・生理学賞を受賞。ただ近年は耐性菌が登場し、医療現場を悩ませているそうだ▼事後に話をした友人の医師には「衛生環境が良くなったせいか、丹毒のような単純な感染症の治療経験のない若手もいる。昔の病気だから簡単に治せると甘くみるな」と意見された。我々の周囲には常に多くの病原体がいる。病理を解明し、疾患を退けた先人の英知に、尽きせぬ感謝を捧げたい。
(2018/6/4 05:00)