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高機能・高精度ニーズに応える 歯車と歯車加工機

(2018/6/6 05:00)

業界展望台

歯車は自動車をはじめとする輸送機器や産業機械、工作機械、ロボットなどの部品に多く使われており、産業を支える重要な機械要素である。燃費向上や低コスト化のニーズが高まる中、歯車にも小型・軽量化が求められ、強度向上やノイズ低減、高能率加工などますます高度な性能が要求されている。

■高能率加工を実現

歯車は運動・動力の伝達装置に広く使われる重要な機械要素。動力伝達の確実さとコスト面などから高い信頼性があり、高精度化や機能向上のための研究開発が続けられている。大きさや形状、材質などは使用目的などによってさまざまで、製造法も多岐にわたる。

歯車の製造工程は、素材を切り出し、旋盤で穴開けや溝加工などで主な形を作って、歯を削りだす歯切りをする。その後、焼き入れ、研削、検査などを行い精度を高めていく。歯車の命ともいえる精度に大きく影響するのは歯切り加工。歯を全体的に少しずつ成形する「創成法」と、歯溝を一つずつ切削する「成形法」がある。

  • ホブ(小笠原プレシジョンラボラトリー提供)

広く普及しているのは創成法で、一般的な加工機がホブ盤である。円筒の外周にネジ状に多くの切り歯を取りつけたホブと呼ばれる切削工具とワーク(加工対象物)に一定の回転運動を与えて歯の創成を行う。これまでに加工精度や生産効率を追求してきており、完全自動化やドライカット、面取り・バリ取り装置を付属した複合機など高付加価値の製品開発も行われている。

最近はホブ盤のように専用の歯車工作機械を用いなくても、複合旋盤や多軸のマシニングセンターを用いて歯車を切削するケースも増えてきた。高精度、高剛性の機械とソフトウエアの高度化などにより加工精度のバラつきやコスト面の課題がクリアできるようになっている。

  • 内歯車のギアスカイビング加工(黒河周平九州大学大学院工学研究院教授提供)

一方で内径に歯がついている内歯車の加工には、高能率なブローチ加工や汎用性の高いギアシェーパー加工があり、形状や生産量に応じて使いわけられてきた。近年、内歯車加工のさらなる高能率化を実現する工法として、ギアスカイビング加工が注目されている。

ギアスカイビング加工は創成法の一つ。ピニオンカッタータイプの工具とワークを高速で回転させ、それぞれの1歯分の回転を同期させる。同期制御しながら工具をワークに押しつけ、ワークの軸方向へ送りながら歯の溝を削り取るように加工する。「Skive」は、薄く剥ぐという意味だ。

  • ピニオンカッター(小笠原プレシジョンラボラトリー提供)

カギとなるのは高精度な同期回転技術。ホブ加工を上回る高速回転での同期が可能になり実現した。また内歯車だけでなく外歯車の歯切りもできるなど加工の自由度が高く、より複雑な形状への対応が期待される。

ギアスカイビング加工に特化した専用機もあれば、ギアスカイビング加工を持たせて工程集約を提案する複合加工機もある。工具寿命が短いのが課題だが、耐摩耗性のある工具開発やコーティング技術の進歩により、自動車業界を中心に徐々に市場に浸透してきているという。

■生産高・堅調に推移

  • 歯車・歯車装置の需要先(2017年月別)

経済産業省の機械統計によると2017年の生産高は歯車単体で前年比10.1%増の850億3500万円、歯車装置は同2.3%増の2082億5900万円となっている。生産高は用途や業種によって差はあるものの全体として2年ぶりに前年比プラスに転じ、堅調に推移している。

歯車・歯車装置の最大の需要先は自動車産業。世界的に環境規制が強まる中、車両の軽量化や燃費向上などの重要度が増し、歯車に求められる性能も高まっている。

日本歯車工業会では17年度の動向として、人工知能(AI)やロボットなどに代表される自動化投資が活発で、歯車業界でも第4次産業革命と呼ばれる生産様式の変革の流れに目を向ける一方、電子部品や自動車などの分野での需要と競争力強化のための投資が続いたことを、堅調な要因に挙げている。

高精度の歯車用切削工具や歯車加工、測定機器の開発・製造を手がける小笠原プレシジョンラボラトリーの前田憲次開発部部長代行は「小モジュールの分野では産業機械用ロボットや車載用などで小型歯車減速機の需要が年々伸びている。特に遊星歯車減速機、波動歯車減速機は注目されている」と分析する。

こうした中「『まず歯車機構を静かにしたい』というニーズはあらゆる方面から聞く」(同)と実感している。機械の振動や低騒音を最小限に抑え、また、より大きな動力伝達をできるだけ小さな歯車で行うためにも、歯型精度と歯面の面性状の向上は重要だ。加工技術だけではなく、歯車性能を保証する高精度な検査技術も不可欠である。

歯車の精度評価には歯型誤差、歯すじ誤差、ピッチ誤差など個別の誤差が決められている。また、かみ合い誤差は製作した歯車を加工精度の基準となるマスターギアとかみ合わせて精度を評価する。一般的には量産品の全数検査向けの「両歯面かみあい試験」を使うが、研究開発向けの「片歯面かみあい試験」も最近注目されているという。歯車試験機メーカーでは非接触測定ができる試験機の研究開発も進めている。

■「カレッジ」で人材育成

  • ギヤカレッジ基礎実習(日本歯車工業会提供)

高性能、高精度が求められる歯車に携わる人材には、多岐にわたる知識と技術の習得が求められる。若者の機械離れが言われているが、歯車に関しても同様に大学などで学ぶ機会が少なくなっているのが現状のようだ。

日本歯車工業会では業界をけん引する人材育成に注力しており、歯車技術を基礎から応用まで系統的に学べる「JGMAギヤカレッジ」を開講している。例年、締め切りを待たずに定員に達する人気の講座となっている。

基礎講座の「マスターコース」は歯車の基礎・設計・製造に関する講義とメーカーでの現場実習、応用講座の「プロフェッショナルコース」は応用に重点を置いた歯車の設計・製造・性能評価に関する講義とトラブルシューティングの講義・演習で構成される。

マスターコースの「ワンポイントレッスン」で講師を務めた小笠原プレシジョンラボラトリーの前田氏は「若手中心の受講生の中には、これまで歯車にあまり触れてきていないメンバーもいる。学生には在学中に油にまみれて歯車をいじり、その特性を学んでほしい」とメッセージを送る。

日本歯車工業会は2018年に創立80周年を迎える。同工業会では「会員ファーストのスローガンを掲げ、より一層のサービスの提供を目指していく」と気持ちを新たに次なる一歩を踏み出そうとしている。11月9日には記念式典を行う。

(2018/6/6 05:00)

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