[ オピニオン ]
(2018/7/18 05:00)
社員の副業・兼業を進める動きが官民で広がっている。少子高齢化に伴う労働力不足への危機感が背景にあるが、産業界にはこうした流れを前向きに受け止め、価値創造の担い手を長い目で育てる姿勢を期待したい。
政府は、企業が就業規則を制定する際のひな型となる「モデル就業規則」について副業を認める内容に改定したのに続き、6月下旬からは複数の企業で働く働き手の休業補償などの議論に着手した。
こうした動きを先取りする形で、一定の条件下で副業を認める方向へかじを切る企業は増えている。大手企業の副業解禁としてロート製薬が話題を集めたのは2016年。その後、さらに広がり、コニカミノルタや新生銀行、ユニ・チャームなどが独自制度を導入している。
副業・兼業に限らず、社員がさまざまな活動を通じて、社会感度を高めることは企業競争力に直結することが指摘されている。企業活力研究所の調査からは知的好奇心やビジネストレンド感度が高い従業員が所属する部署ほど「稼ぐ力」が高いことが明らかになった。
ただ、企業の中には戸惑いがあるのも事実だ。社員が副業・兼業や社外交流の場で得た知見やノウハウと、ビジネスとの接点が容易に見い出せなかったり、いずれ辞めてしまうのではと人材流動化への懸念も根強い。
とはいえ、働く側の意識変化は先行する。自身の能力を広く発揮したいと希望する働き手が広がれば、主従関係の「会社対従業員」の延長線上ではない新たな関係構築を迫られる。
経済産業省は、副業・兼業時代の企業の役割について「個人の『能力開発』からむしろ『機会開発』へシフトする」と指摘する。自身をいかに成長させてくれるかとの視点で企業が選別される時代が到来すれば、その中で人材投資を回収し、いかにイノベーションを創出できるかが問われる。人手不足への対処策として背中を押されるのではなく、企業自身も持続的に成長していく上での経営戦略と受け止め、経済社会の構造変化に挑みたい。
(2018/7/18 05:00)