[ 機械 ]

【別刷特集】位置決め技術の高精度化に対する現状と課題

(2018/11/6 09:30)

 微細加工技術の進展に伴って位置決めの高精度化が要求される。位置決めで多用されるボールネジとリニアガイド駆動では厳しいネジ精度や高度な制御系が必須であり高精度化は容易でない。運動精度向上のカギは摩擦の排除にあり、非接触で支持や駆動力を得る位置決めが望ましい。そこで、磁気吸引力やスクイーズ効果による空気静圧力を利用して摩擦を排除した位置決め機構の開発を紹介し、位置決め技術の現状と課題について考察する。

九州工業大学大学院工学研究院機械知能工学研究系機械工学教室 助教 田丸 雄摩

高まる高精度化への要求

 位置決めは加工をはじめ、検査や観察に欠かせない機械技術要素であり、専門的には「精密位置決め」と「超精密位置決め」と呼び分ける。前者と後者の区別は研究者や技術者のイメージあるいは技術分野によって異なるが、おおむね精密位置決め=1マイクロメートル以下、超精密位置決め=10ナノメートル以下を指すようである。最近は半導体製造技術を発展させて製作されるセンサー・アクチュエーターを一体化させた微細加工部品の微小電気機械システム(MEMS)デバイスの応用範囲が広がっており、おのずと位置決めの高精度化に対する要求は高まっている。

 従来、機械加工の主役は工作機械であり、加工精度の向上はテーブル位置決め精度に大きく依存する。工作機械のテーブルはボールネジで駆動されるタイプが多い。つまり、位置決め精度を上げるにはネジ自体の精度を改善する高度な技術力や高性能なコントローラーを用意する必要があり、コスト高にもつながる。

 工作機械での加工はテーブルが加工力に耐えうる能力を必要とするため、ボールネジでの駆動とリニアガイドでの案内で構成する機構がかなっている。しかし、MEMSのように加工力がほとんど作用しない用途ではこれらの駆動・案内要素がふさわしいとは言い難い。つまり、微細加工には微細加工に見合った視点での位置決め技術の開発が必要であると考える。

 特に超精密位置決めでは運動精度の向上や摩擦・発熱を避けることが重要であり、そのためには位置決め動作やその動きを案内する機構の摩擦排除がカギとなる。ここからは筆者の考える位置決めの課題とそれに対して取り組んでいる位置決め手法や微動装置の開発について紹介する。

位置決め機構が抱える課題

 積層型ピエゾ素子(以下ピエゾ)は応答性に優れ、伸縮で生じる微小変位を容易に出力できることから精密・超精密位置決めのアクチュエーターとして有用である。単体では数十マイクロメートル程度の変位を変位拡大機構と呼ばれる弾性ヒンジを持つ可撓(かとう)機構に組み込み、数倍―数十倍の変位に拡大して用いられることが多い。この機構にテーブルを設定すればピエゾの特性を備えた微動テーブルとして機能するが、一方で高精度位置決めとして不利に作用する側面もある。

 一つはピエゾが直接機構に接していることである。X、Yの2軸で微動するテーブルを一段で構成する場合、X軸あるいはY軸の一方向に微動させると、微動していない軸に設置しているピエゾは機構との間に摺動(しゅうどう)摩擦を生じる。この摩擦は静止摩擦と動摩擦の違いで生じるスティックスリップを引き起こし、運動精度の低下を招く。ひいてはコンタミネーションの発生が製作デバイスに悪影響を与える可能性もある。

 二つ目は変位拡大と変位分解能はトレードオフの関係にあるため双方を両立させることが困難なことである。微細加工向けのテーブルを効果的に機能させるには高精度・高分解能位置決めはもちろん、加工範囲拡大のため長ストロークも肝要である。つまり、摩擦を排除して高い運動精度を確保し、高精度・高分解能を保持しつつピエゾのような既定の出力変位に依存しないストロークを持つ微動装置の開発が望まれる。

磁気吸引力による位置決め

  • 図1 磁気吸引力を利用した可撓支持微動テーブル

 ピエゾ変位を発生力とする可撓機構には摩擦の問題があることを述べたが、弾性ヒンジで微動変位を案内するので剛性を確保できる。

 すなわち、摩擦を介在せずに発生力を与える可撓機構で構成すれば運動性能の優れた位置決め装置の実現に大きく寄与する。そこで電磁石と永久磁石(ネオジム磁石)を対向させて相互間に生じる磁力を発生力とする可撓機構を用いた微動装置(図1(a))を開発した。反発、吸引のどちらの磁力も微動発生力に適用できるが、ここでは挙動が安定する吸引力を用いる。

 電磁石に印加する電流を調整することで吸引力が変化し、微動変位が生じる。基本的な動作は一対の電磁石と永久磁石で成立するが、長ストロークと高分解能の微動を容易に両立できるように工夫している。それは図1(b)の微動原理に示すように微動テーブルをはさんで二対の組み合わせで電磁石と永久磁石を配置していることにある。

  • 図2 ステップ応答(磁気吸引力)

 これらの磁極間隔A、Bは自在に調整可能であるため一方を狭く、もう一方を広くすると同じ印加電流でも前者は強い吸引力で大変位、後者は弱い吸引力で小変位が生じる。つまり、印加電流の複雑なコントロールをしなくても簡単に長ストロークと高分解能変位を両立する微動制御ができる。図2はステップ応答の一例を示す。今後、大小微動を連係させたステップ応答についても試験を行い、性能を確認する予定だ。

スクイーズ膜支持による位置決め

  • 図3 スクイーズ効果を利用した浮上力支持微動テーブル

 非接触で力を伝達する手段には磁力のほかに空気圧力が挙げられ、磁気の影響を排除できる利点もある。中でも自律的に空気静圧力が得られるスクイーズ効果と呼ばれる性質は興味深い。これは対向する2面間に数キロヘルツ程度の高周波を振動子で加振すると開放した状態でも面間の静圧力が維持され空気膜を生成するものであり、この静圧力を支持力として適用すれば容易に非接触支持が可能となる。

 筆者はこの性質を応用して支持と微動の双方をスクイーズ効果による静圧力だけで担う微動装置(図3(a))を開発した。テーブルの底面を逆ハの字型のユニークな形状に加工して、くさび状に支持力を得るようにしている。このためテーブルは浮上力(静圧力)と自重がバランスして中央に静止支持される(図3(b)状態1)。次に片方の浮上力を増すと膜厚が大きくなり、テーブルは右方に微動する(図3(b)状態2)。再び左右の浮上力を等しくするとテーブルは自重でもとの位置に戻る(図3(b)状態3)。図4はステップ応答の一例を示すが、ステップごとにバンドが表れる。これは空気膜を介してテーブルに伝わる高周波振動が原因である。

  • 図4 ステップ応答(スクイーズ効果)

位置決め技術 課題と今後の展望

 摩擦排除と長ストロークかつ高精度・高分解能位置決め機構の開発をテーマに磁気吸引力およびスクイーズ効果を利用した微動装置について紹介した。いずれもステップ応答という形で微動変位が得られることを確認できたが、高分解能位置決めの観点では課題もある。ここで示したステップ応答でも精密位置決めのレベルは達成できそうだが、超精密位置決めのレベルに達するにはまだまだ課題が多い。主因は機構の振動が思いのほか大きく、変位分解能向上の妨げになっていることである。振動発生は低剛性が原因と推察するが、摩擦を排除すると運動精度は向上する半面、低剛性化を招くことになる。

 分かりやすくいうと、摩擦を減らせば位置決めの「動作」では高精度・高分解能に有効性を発揮するが、位置決めを「保持」することに難が生じるということである。つまり、今後はこの「保持」への着目が必要だ。そのためには制御的に位置決めのずれを補正する方法もあるが、ここで紹介したような可撓支持の剛性を高めたり、空気膜支持での振動が問題であるなら空気脈動のコントロールで制振したりして装置システムそのものに対する位置決め精度の信頼性を高めることが重要であると考える。

JIMTOF2018特集

(2018/11/6 09:30)

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