[ オピニオン ]
(2018/11/29 05:00)
2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、「スポーツ×IT」によるビジネス拡大が注目されている。映像系の観(み)る楽しみに加え、選手強化やファン拡大に向けたIT活用、ホテルなどが併設された総合スタジアムなど、スポーツ×ITがもたらす波及効果は大きく、2020年以降も見据えて、持続的に発展できる地に足の付いた広がりを期待したい。
文部科学省の調査・推計によると、スポーツ産業の市場規模は米国が49兆8000億円とケタ違いに大きく、国内総生産(GDP)の3%を占める。英国は5兆1000億円で同2・5%に対して、日本は5兆5000億円で同1%。スポーツ産業の定義にもよるが、東京五輪を控え、日本の伸びしろが大きいのは間違いない。
スポーツ×ITの新潮流は従来とはひと味違った期待感がある。直近ではスイスに本部を置く国際体操連盟(FIG)と富士通が共同で、体操競技への採点支援システムの採用を発表し話題になった。選手の動きを3次元レーザーセンサーで検出し、目視では分かりにくい回転やひねりなどを正確に可視化する仕組み。人工知能(AI)を活用し、肘の角度や技の切れ目などをリアルタイムに認識し、技の難度を数値化したデータベース(DB)と照合することで採点を支援する。
年開催の世界選手権で正式採用となり、東京五輪でも5種目の採点支援に用いられる。AI活用とはいえ、あくまで判定は審判が決めるわけだが、技の難易度が上がる中で判定時の負担軽減が期待される。
DB化した3次元データは競技向上の強力な武器にもなる。このシステムを選手やコーチが練習に使えば、一流選手とのギャップを数値データで比較し、最適な身体の動かし方を確認することも可能だ。
11月20日の発表会見で、FIGの渡辺守成会長は採点支援システムの効果として、審判の公平性だけでなく、「観戦のエンターテインメント性も高まる」と期待を寄せた。目視による審判に比べて採点時間が大幅に短縮できる上、3次元データを観衆や視聴者に分かりやすく見せれば、技に関する理解度が深まり、ファン拡大につながる。
もう一つ、渡辺会長が強調したのは3Dデータの活用の広がり。一流選手の身体の動きは医療・健康データとしても重要であり、体操競技にとどまらず、病院や介護施設でのリハビリの支援など幅広い応用が見込める。
わが国は約4人に1人が65歳以上という状況下で医療費負担や社会保障費用の増加などの難問が渦巻いている。政府は「世界最先端IT国家宣言」を打ち上げる一方で、「人生100年時代」を提唱し、「健康・医療」を成長戦略の重点課題に挙げている。ただ実態はいまひとつ伴わず、打つ手が単発になりがちだ。
スポーツ×ITを「スポーツ×IoT(モノのインターネット)」と読み替えれば、いろいろな施策を連携させた相乗効果も期待できる。例えば個人データと、ビッグデータ化された多様な経験値を照らし合わせ、生活習慣病の予防や健康維持に役立つサービスなども可能。スポーツセンターに通いながら、健康維持に向けた工夫が個人でも実現できる。「健康長寿社会」の実現に向けて、スタートアップを含め多くの企業を呼び込むことで、日本発のエコシステム(協業の生態系)の形成に期待したい。(斉藤実)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2018/11/29 05:00)