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(2019/3/18 05:00)
モノづくり日本会議は2月25日、大阪科学技術センタービル・大ホール(大阪市西区)でロボット研究会シンポジウム「空の産業革命 ドローンの産業活用の促進に向けて」と題したシンポジウムを開催した(後援=経済産業省、大阪商工会議所)。土木・測量や農業、配送などの分野で飛行ロボット(ドローン)の先進的な活用・開発を行う企業の事例発表を通じ、今後のドローンの利活用とその推進策を探った。
開会あいさつ/関西イノベーションに一役
日刊工業新聞社 取締役 大阪支社長 竹本祐介
モノづくり日本会議はリーマン・ショック後、もう一度モノづくりの力で日本を元気にしよう、という私どもの呼び掛けに応えていただいた企業とともに立ち上げました。モノづくりのパラダイムチェンジ、超モノづくりへの挑戦という大きなテーマで活動しています。現在、大企業から中小企業まで業界を問わず、約2000社が参画し、ロボット研究会は立ち上げたときから大きな柱の事業の一つになっています。ロボットの技術を使って新しいビジネスを起こそうという趣旨で活動を展開してきました。
大阪・関西万博の開催も決まり、日本のモノづくり産業、特に関西の企業のイノベーションに少しでもお役に立てる活動をしていきたいと考えております。
基調講演 ドローンの産業利用拡大に向けた課題と展望
東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授 鈴木真二氏
ドローンは日本で最初に開発され、当初はオモチャとして販売された。それが、センサーやバッテリーなどの技術的な進歩により、報道、捜索、点検などの「空撮」、モノを運ぶ「輸送」、農薬や消火剤をまく「投下」、無線中継基地の「通信」、放射線量や微小粒子状物質(PM2・5)、気象を観測する「サンプリング」などの用途に使用されるまでになった。米連邦航空局によると米国内で産業利用されるドローンの台数は、2016年から5年で10倍に増えると見込まれている。
さらに今後、ドローンは産業利用だけでなく、関連する産業を創造していくと考えられる。自動車にメンテナンスや教習所、保険、ルートマップなど、さまざまなサービスがあるように、ドローンにもこうしたサービスが必要となり、新たなビジネスが生まれる可能性がある。
一方、ドローンには技術や法律の面で課題があるのも事実だ。基本性能の面では、飛行時間や耐突風性、耐故障性が挙げられる。特にドローンの落下に対する安全性を高めるにはどうしたら良いか検討が進められており、ローターを複数付けて一つのローターが止まっても飛べるようにすることや、パラシュートで落下速度を落とすこと、エアバッグを搭載して衝撃を抑えることなどが考えられている。
また、橋の下やトンネルの中などGPSが機能しない環境下でドローンをどうやって自律で飛ばすかや、飛んでいる複数のドローンをぶつからないようにするかなど、管制・誘導制御の面でも課題があり、さまざまな技術の開発が進められている。その他にも、ドローンが飛ぶ土地の上の上空権の問題やプライバシーの問題、第三者にドローンを乗っ取られるセキュリティーの問題もある。
こうした課題に対して官民協議会で対応策を議論しており、機体や操縦者の登録制度、保険制度の充実、飛行するドローンの目的地や飛行位置などの情報を取得できるリモートIDの導入などが話し合われている。また私が理事長を務める日本UAS産業振興協議会(JUIDA)ではドローンの教え方の標準化を図るため、認定スクール制度を実施しており、これまでに200校以上を認定している。
ドローンで実現する建設現場のIoTスマートコンストラクション
コマツ スマートコンストラクション推進本部 副本部長 小野寺昭則氏
当社は15年1月からスマートコンストラクションというICTを使った工事支援ソリューションサービスを提供しており、この中でドローンは非常に重要なツールとなっている。当社はメーカーだが、人手不足の建設業界の労働生産性に問題意識を持ち、ソリューションサービスを開発・提供してきた。
スマートコンストラクションでは、まずドローンが飛んで施工現場の現況の形を測量する。ドローンが高さ30―40メートルぐらいの所を飛んで、デジタルカメラで1秒間に1回シャッターを切りながら同じ点を複数の場所から撮ることによって、特徴点を重ね合わせて平均化し、それを3次元の点群のデータにする。3次元化された現況データと完成形の施工図面を重ね合わせることで、施工エリアや土量が計算される。これによって計画ができたらサポートセンターで施工用データを作成し、これを建設機械に送ることで土をどのエリアにどれだけ動かすのかといった施行管理のサポートを実現している。
こうした各工程を横につなぐ「デジタルトランスフォーメーション」の取り組みを進めることで現場の生産性を高めている。ドローンは最初と最後に地形を把握するといった非常に重要なツールだと捉えている。
18年7月に起きた西日本豪雨の災害現場では、3次元測量データを短時間で生成するサービス「エブリデイドローン」を70回以上飛ばしている。救援活動の後、行政職員が現地へ入って測量し、予算申請などの書類を作る必要があるが、エブリデイドローンを活用すれば、俯瞰(ふかん)的な写真や近くの写真、土量などを簡単に撮ることができる。このエブリデイドローンは災害現場のニーズにマッチしていると思う。
スマート農業におけるドローンの活用
クボタ 特別技術顧問 飯田聡氏
日本の農業就労者は高齢化し毎年離農が起こり、就労者は大幅に減少している。政府は企業の農業参入の容易化、基盤整備事業の拡大などで規模の拡大支援をしているが、農家にとっては農業がもうかる魅力的な事業であるかが課題となる。
生産コスト削減や生産品の高付加価値化、ブランド化が必要となり、自動化・無人化や、工業的な発想でデータを活用する精密農業が求められる。これまでは機械化一貫体系を目指したが、今後はそうしたスマート農業の時代となる。そこでドローンがいかに活躍するかが重要だ。
当社はスマート農業の一貫体制を目指し、栽培管理面では営農支援システムであるクボタスマートアグリシステム、整地などにはアグリロボトラクター、移植には手放し運転ができる田植機、収穫には食味・収量センサー付きのロボットコンバインなどを提供している。ドローンも農薬散布のほか、リモートセンシングで追肥判断などに用いる。
ドローンによる農薬散布は効率面では無人ヘリコプターにまだ負けているが、コントロールのしやすさなど利点もある。現在、当社が使っているドローンでは稲の場合、15分で約7ヘクタールの育成情報を取得でき、生育指標に基づいて生育マップの生成を行うことができる。育成状況を把握することで、重点的に追肥する場所が分かり、肥料を有効利用することが可能だ。
農業分野においてドローンは、収穫適期の予測や薬剤のピンポイント散布、鳥獣猿の監視・追い払いなど多岐にわたる使い方が出てきている。今後、ドローンを普及させていくためには、サービス網の整備やドローンの精度の向上、各種設定・操作作業をシンプルにすることなどが重要だ。
ドローンによる配送の可能性
自律制御システム研究所 取締役 最高執行責任者 鷲谷聡之氏
当社は大学発のベンチャー企業として13年に創業した。ドローン分野で優秀な人材を採ろうとすると国内だけでは難しいため、社員44名のうち、3分の1が外国人のエンジニアだ。18年12月にはドローンの専業企業としては初めて東証マザーズへの上場を果たした。
当社のコア技術はドローンの頭脳に当たる部分の開発だ。頭脳は大きく大脳と小脳の2段階に分けられると思っている。小脳は人間でいうと自律神経に該当し、風を受けても姿勢を保ち、機体を安定させる役割を持つ。現在、人間のように先を考える大脳の開発が最大のテーマになっており、視覚的に何かを見て認識することに取り組んでいる。
その中で進めているのがドローンに目を付けることだ。ステレオカメラを前方に付け、ドローンが画像処理をし、自分がどこにいるのかを認識する。画像の特徴点を抽出し、3次元モデルをリアルタイムに作り上げている。従来はGPSやコンパスを使っていたが、建物やトンネルの中、磁場が発生する化学プラント内などでは使えないので、このような技術で代替することに取り組んでいる。
18年10月からは福島県で日本郵便と9キロメートル離れた郵便局間の荷物の輸送を週3日、1日2往復実施している。補助者を配置しない目視外飛行は国内初だ。さらに楽天とも過疎地向けのドローンによる配送を進めており、19年度中にサービスを開始する予定でいる。
20年代にはドローン前提社会が到来すると考えている。そのためには個別住宅へのドローンによる配送を行うための安全機能・高精度化や、飛び交うドローンの衝突回避、連続運用による採算性の確保、有人地帯上空を飛行するための安全基準の策定などが求められる。
閉会あいさつ/水素燃料の空飛ぶ車 大阪万博で披露
近畿経済産業局 資源エネルギー環境部 エネルギー対策課 課長補佐 織田貴士氏
皆さまの講演を通じ、未来社会においてドローンはますます活躍が期待される大変有効なツールだと改めて認識できた。近畿経済産業局では、水素燃料を動力源とし、人が乗れるドローンを大阪・関西万博で披露することを目指す「ハイドローンプロジェクト」を推進している。本プロジェクトは、基本的には関西地域の中小企業の力を集結し、オール関西で臨みたいと考えている。こうした取り組みを通じ、関西のドローン産業の発展や中小企業の技術力の底上げを近畿経済産業局としても支援していきたい。中小企業の皆さまの参加をお待ちしている。
(2019/3/18 05:00)