(2019/11/28 05:00)
すべての自動車ユーザーが加入する自動車損害賠償保障制度(自賠制度)は、交通事故の被害者を救済する“共助”の担い手だ。一般の医療機関で受け入れできない最重度の後遺障害者用の療護施設を運営するなど最後の砦(とりで)でもある。だが国土交通省が管理する自動車安全特別会計から一般会計に貸し出された運用益6121億円が繰り戻されておらず、この状態が長く続けば制度の存続が危ぶまれる。
自賠制度は保険料積立金の運用益を財源とする。1994、95年度に赤字国債の発行を抑制したい国の意向で一般会計に1兆710億円が貸し出された。2003年度まで繰り戻しが行われたが、04年度から14年間は財務相と国交相の覚書にある「一般会計の財政事情」を反映し、1円も戻されていない。
繰り戻しは18年度に再開されたものの額はわずか23億円。19年度も37億円と利息分にも満たない。この間、大臣間の覚書は何度も改められた。17年12月の麻生太郎財務相と石井啓一国交相(当時)の覚書では期限を22年度と定めたが、現行のペースでは200年かかる。制度維持のため積立金を何度か取り崩した結果、19年度の残高は04年度比42%減の1650億円になった。
この制度による被害者救済事業は、最重度の後遺障害者を治療する全国10療護施設の運営や、在宅ケア家庭に対する介護料の支給、重度後遺障害者を介護していた家族が亡くなった後の受け入れ施設を探すなど他では代替できない。危機感を持った自動車事故の被害者団体などは10年に「自動車損害賠償保障制度を考える会」を設立し、毎年、財務省や国交省に繰り戻しの実施を陳情している。
救急医療の発展もあり交通事故死者数は1970年の1万6765人から2018年は3532人と8割減った。ただ重度後遺障害者はここ数年1800人弱で減っていない。過去に療護施設を視察し被害者と家族の大変さを痛感した赤羽一嘉国交相は「財源問題で当事者に心配を掛けることがあってはならない。財務省としっかり協議する」と予算折衝前に述べている。
(2019/11/28 05:00)
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