モノづくり日本会議 空飛ぶクルマの実用化に向けた最新の開発動向と取り組み

(2020/1/14 05:00)

国際ロボット展併催シンポジウム

モノづくり日本会議は12月20日、東京・有明の東京ビッグサイトで開催された2019国際ロボット展会場内で「空飛ぶクルマの実用化に向けた最新の開発動向と取り組み」と題したシンポジウムを開いた。国内外で異業種による開発競争が加速する「空飛ぶクルマ」の現状や実用化に向けた課題、将来展望などについて、日本の産学官のキーパーソンが発表し、議論を交わした。

空飛ぶクルマの世界動向と技術的、制度的課題

東京大学 未来ビジョン研究センター特任教授、名誉教授 鈴木真二氏

東京大学 未来ビジョン研究センター特任教授、名誉教授 鈴木真二氏

空飛ぶクルマは世界中で開発が進められており、スロバキアのエアロモービルなどによる自動車に翼が付いているタイプや、独ボロコプター、中国イーハンなどの人が乗れるドローンタイプなどに分類できる。欧エアバスと独アウディは共同で乗客用カプセルと切り離しができる空飛ぶクルマのコンセプトを発表している。カプセル、カプセルと合体して飛行するドローン、地上を走行するビークルの三つのモジュールで構成される。ボロコプターは2019年にシンガポールでの有人飛行試験に成功し、実用化が近づいている。

ヘリコプターはローターハブなどが非常に複雑な機構で価格も高いが、ドローンタイプの空飛ぶクルマは機構もシンプルでヘリコプターよりも安価だ。しかし、リチウムイオン電池はガソリンに比べ、重量当たりのエネルギー密度、体積当たりのエネルギー密度ともに低いため、バッテリー利用の空飛ぶクルマはガソリンのヘリコプターに比べて飛行距離、飛行時間が短い。今後、蓄電池の性能向上が期待される。

航空機は強度・構造・性能が安全性、環境保全のための技術上の基準に適合するかどうかを検査し、その基準を満たしていると証明する耐空証明を受けなければならない。だが、空飛ぶクルマにはまだその方式が固まっていない。また、パイロットライセンスをどうするかといった課題もある。

こうした新たな安全基準を作っていかなければならない点に大きな課題があるが、日本の提案が受け入れられる可能性もあり、日本に取って大きなチャンスになる。

空の移動革命に向けた政府の取組

経済産業省 製造産業局総務課長 藤本武士氏

  • 経済産業省 製造産業局総務課長 藤本武士氏

空飛ぶクルマは「電動」「自動」「垂直離着陸」が一つのイメージだ。ヘリコプターに比べて騒音も小さく、部品点数が少ないため、機体にかかるコストを抑えられる。また既存インフラに依存せず、点から点への移動ができ、渋滞問題を抱える都市部や移動が不便な離島・中山間地域での活用が想定される。災害時にインフラが被害を受けた場合でも、復旧を待たずに人命救助や救援物資の運搬を行うこともできる。

現在、メーカーによる機体の開発に加え、ヘリコプターによる空飛ぶクルマの活用を想定した実証実験も進められている。実用化されれば、都市部から1時間ほどで200キロメートル程度を移動でき、空の移動によって地方がなくなることも期待される。

一方で、空飛ぶクルマを実用化するための課題は多くある。主に、強く軽い蓄電池などの「技術開発」、機体の安全性の確認、管制システムの確立といった「インフラ・制度の整備」、サービスの担い手となる「事業者の発掘」、世の中に受け入れてもらうための「社会受容性の向上」などが挙げられる。

18年に政府は空飛ぶクルマの実用化に向け、「空の移動革命に向けた官民協議会」を設立し、ロードマップを策定した。その中ではまず事業者がビジネスモデルを提示し、それに沿った形で機体の安全性の基準や離着陸場所などの制度、インフラを整えていくとしている。そして、20年代半ばにモノの移動や地方での人の移動事業をスタートし、30年代には都市での人の移動を開始することを目標にしている。

官民連携は実用化に向けた大きなアドバンテージと考えており、今後も事業者と実用化に向けた取り組みを進めていく。

ヤマトの「空飛ぶトラック」がもたらす未来とその開発

ヤマトホールディングス 社長室 eVTOLプロジェクト チーフR&Dスペシャリスト 伊藤佑氏

ヤマトホールディングス 社長室 eVTOLプロジェクト チーフR&Dスペシャリスト 伊藤佑氏

ヤマトホールディングス(HD)は19年に創業100周年を迎えたが、次の100年を見据えて無人輸送機「空飛ぶトラック」の開発に取り組み始めた。空飛ぶトラックは既存の航空機には適さない数十キロメートル程度の都市圏内を飛行し、貨物輸送の高速化、多頻度化を目指している。空飛ぶトラックでの荷物の発送と受け取りは配達員が行う。

物流向けの機体は現場のニーズが分かる物流事業者が手がけるべきだと考え、機体開発に取り組み始めた。特に、高い迅速性と効率性が求められる物流現場では、空中における性能(耐空性)に加え、地上における性能(地上操作性)も重要な要素となる。この両方を追求するため、米ヘリコプター製造大手のベル社と共同開発を行い、当社は貨物ユニット「PUPA(ピューパ)」を開発した。

今後、サービスの実用化に向けては、多数の機体を制御する運航管理システムの構築が求められる。

  • ベル社とヤマトHDが開発した空飛ぶトラック(ヤマトHD提供)

当然、空飛ぶトラックだけで物流が完結するわけではない。顧客やトラック、集配スタッフなど、さまざまなリアルタイム情報を連携させ、最適化を実現することが必要だと考える。

20年以降に国内でのサービス実証試験を開始し、25年までに空飛ぶトラックの有償サービスをスタートさせたいと考えている。そのためには機体開発から認証の取得、群体管理システムの構築とビジネス上の商品設計、マーケティングなどに同時並行で取り組まなくてはならない。エコシステム(協業の生態系)の構築も重要な課題になるだろう。

日本発 空飛ぶクルマ“SkyDrive”の開発について

SkyDrive代表取締役、CARTIVATOR共同代表 福澤知浩氏

  • SkyDrive代表取締役、CARTIVATOR共同代表 福澤知浩氏

我々が作っている空飛ぶクルマは、四隅に上下8枚のプロペラを配置し、機体にタイヤを装備した陸空両用の2人乗りの機体だ。20年夏の有人デモフライト、23年の販売開始および事業化を目標に取り組んでいる。これまでにトヨタ自動車やNEC、日本精工など80社以上に協賛していただき、資金・部材・人材などの提供を受けている。

空飛ぶクルマには「サイズが大きく航続距離が長い機体」と「サイズが小さく航続距離が短い機体」の二つのカテゴリーがある。サイズが大きく航続距離が長い機体ではベル・ヘリコプターや米ボーイング、米キティホークなどが開発を行う。ただ、固定翼があることやプロペラの向きを変えられることなどから価格、認証までのハードルが高く、離着陸の場所も限られる。一方、当社は日本や東南アジアのような狭い国土の国でも受け入れられ、誰もが身近に乗れるモビリティーを目指し、世界最小で認証も比較的容易な機体の開発を進めている。18年末には空飛ぶクルマとして日本で初めて屋外での飛行許可を取得し、飛行試験を実施した。

  • 昨年12月の有人飛行試験に使用した機体(スカイドライブ提供)

19年からは約70キログラムの人形を載せた飛行試験を行っている。数百メートルを4分ほど安定飛行できるようになり、12月には有人飛行試験を行う。

23年には東京都や大阪府の湾岸で社会実装に向けた飛行試験を行いたい。安全性などの観点から海の上を飛び、2点間を結ぶルートを想定している。現在、関係する自治体や民間企業と構想を練っている。東南アジアでも同様のプロジェクトを進めている。最終的にはグーグルマップなどでルート検索を行うと空飛ぶクルマのルートが表示されるようにする。

パネルディスカッション 空飛ぶクルマによって社会はどのように変わるのか

鈴木

 空飛ぶクルマで社会がどのように変わると思いますか。またどのような利用形態が想定されますか。

藤本

 空飛ぶクルマで暮らしがより安全で豊かになると思う。現在ドクターヘリは全国で53機しかない。価格の安い空飛ぶクルマをドクターヘリと同じように使用できれば導入が進む。また、通勤圏も広がり、暮らしも豊かになるだろう。

伊藤

 都市のあり方が変化し、人と自然の関係が変わると思う。空飛ぶクルマに対する人の考えも変化し、空飛ぶクルマがあって当たり前という社会が訪れるのではないか。

鈴木

 空飛ぶクルマは当初、コストが高く、使われ方が限定されると思います。例えば、ボロコプターは1台約3000万円と発表しています。コストについてはどのように考えていますか。

福澤

 20―30年後には確実に車と同じように利用できる。導入期のコスト高の要因の一つに量産の問題がある。航空機より機体が小さい空飛ぶクルマは多く生産されると思うので、徐々にコストは下がるのではないか。

“移動を買う”シェアリングも/日本のモノづくり力生かす

藤本

 最初に導入できるところは公共セクターなど限られると思う。現在、高コストでドクターヘリを運用しているので、そうした分野から導入され、生産台数が増えると価格も下がるだろう。いきなり個人が購入することは難しいので、シェアリングなどで“移動を買う”といった使われ方にも可能性がある。

鈴木

 安全性を確保するためには技術面、制度面からどのような取り組みが必要になるでしょうか。

福澤

 現在、安全対策は(1)墜落しないための開発(2)墜落しても(人が)安全(3)運用規定-の3点セットで進めている。事業を開始する際には落ちないレベルを航空機と同程度にすることが求められる。それを文書に落とし込み、設計・製造のプロセスやサービスの中でも安全を担保することが必要だ。

伊藤

 使い方やオペレーションの面からの安全性の確保も重要だ。空飛ぶトラックは必ず訓練を受けた配達員が携わるようにする。

藤本

 安全基準を作成する際にデータが必要になる。こうした協調分野については政府が実証試験をサポートすることも考えられる。最初はシステム、制度のような技術ではない部分で安全性を高めることが重要だ。

鈴木

 空飛ぶクルマの開発や導入で、日本の強みは何でしょう。

藤本

 一つは産業としてのモノづくり力だ。関連する航空機やヘリコプター、自動車を製造する企業、部品を供給する企業ともに高い技術力を持つ。もう一つは、空飛ぶクルマと“掛け算”ができるビジネスに関心を持つ企業が多いことだ。不動産や商社、鉄道などさまざまな業界の企業が空飛ぶクルマの事業化を考え始めている。

伊藤

 東京はヘリコプターが多く飛んでいるが、頭上を飛んでいても気にしている人はそれほど多くないように感じる。受容性は高いと思う。

福澤

 技術力を持つ企業が多く、開発を行う際に輸入品に頼らなくて済む。また日本は安全性、信頼性に対する要求が高いため、開発品をグローバル展開する際、そのことが品質保証になる。さらに海外メーカーに比べ、日本の企業は、一緒に芽が出るところまでやってみようという協調性がある。さまざまな分野の技術が組み合わさるため、協調は特に重要だ。

(2020/1/14 05:00)

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