(2021/3/4 05:00)
東京都が実施している「Tokyo Robot Collection」についてのオンラインセミナーが2月5日開催された。東京都、Tokyo Robot Collection事業プロモーター(NTTデータ経営研究所)、モノづくり日本会議が主催。ロボット活用による社会課題解決を目指す実証事業の、これまでの3テーマについて、それぞれに参画するロボット事業者、実証フィールド(ユーザー)が紹介した。
特別講演 コロナとサービスロボット
ルネサンスもたらす
東京大学名誉教授・佐藤知正氏
コロナ禍は病気として三つの側面があり、それぞれロボットに期待される役割がある。まず生命にかかわる伝染病であり、消毒ロボットなどコロナに接するのがロボットであるところに価値が生まれる。そして人と人を引き離す病気として、3密回避などにロボットが役立つ。そして社会活動を制限する病気であるから、リアルとバーチャルを混合したイベントに参加したり、eスポーツに使うなどロボットに新しい価値が期待される。
これから新しいサイバーフィジカルシステムが主戦場となるが、本当の難しさはやはりフィジカルの世界にあり、モノづくり大国の日本は結構有利になると考える。サービスロボットは、非常に伸びていて、新たな実用の時代を迎えている。実装を進めるにはコミュニティー共創が大切で、社会実験が日常的に行われる時代になってきた。
21世紀はロボットの世紀になるという意味合いも込め、コロナ禍はロボットルネサンスをもたらすと考える。非常に難しい時代ではあるが、これをバネにロボットが花開く時代が来る。
社会課題解決へ実証事業
実証テーマ
宿泊療養施設等の感染症対策に向けた実証
THK 産業機器統括本部技術本部事業開発統括部専任課長・小林久朗氏
シャープマーケティングジャパン ビジネスソリューション社 ソリューション営業推進統轄部 システム機器営業推進部主任・木村崇氏
富士ソフト プロダクト事業本部PALRO事業部事業部長・杉本直輝氏
負担を軽減
東京都が新型コロナウイルス感染症対策の一つとして行っている軽症者等の宿泊療養施設をメーンのターゲットとして、非対面、非接触でスタッフや宿泊療養者の負担を軽減し、感染リスクを低減するための実証が行われた。9種類のロボットの実証を行っており、自動で来場者の検温をしたり、コミュニケーションロボットが話し相手や連絡窓口になったり、搬送に用いたりした。実証を通じ、運用面やインフラ側の協力が必要であること、ロボットが感染源にならないようにすること、といった課題が明らかになった。
小林
今回は人型のロボットがホテルでの検温受け付けを行い、体温が高かった場合の遠隔操作対応、無人搬送などにも対応している。非接触、非対面といった決められたタスクは十分実行できた。遠隔操作のネットワーク構築など、社会実装に向けた課題もわかってきた。遠隔操作など、ロボットによる新しい雇用も生まれる。当社はハードの部分から、世の中にさまざまなサービスが提供できるよう対応していく。木村
家電のシャープの中でBツーBビジネスを行っている部隊で、生産技術をソリューション化して提供している。今回はロボットと電話を融合しジェスチャーを合わせて表現する通話システムと、センサーで周辺の環境を見ながら自己位置を認識する搬送ロボットに取り組んだ。ロボット型電話は温かみを感じていただいた。搬送ロボットはセットアップから運用開始まで1時間で完了できるなど、今後の展開に自信を得た。杉本
全国の高齢者福祉施設で採用されている人型のコミュニケーションロボットをホテルのロビーに置いて、非対面型の説明支援を行っている。マスク着用をはじめ気づきを与えることで、感染症予防を支援できる。また、個室でスタッフとの連絡窓口となって接触機会も減らしている。療養者の心理的負担を軽減できる可能性がある。バイタルセンサーといった機器と連携してデータを取りながらの活用も進めていきたい。実証テーマ
都市型複合施設のニューノーマル実現に向けた実証
ソフトバンク テクノロジーユニット技術戦略統括Chief Scientist室 AIロボット開発課課長・古谷智彦氏
PSYGIG マーケティング・齊藤夢月氏
6種類が参加
東京ポートシティ竹芝において、スマートビルであるオフィスタワーの感染症対策や、少子高齢化などに対応する業務効率化を目指して実証を行い、6種類のロボットが参加した。アバターロボットを用いた施設見学や、案内ロボットによる施設内案内の遠隔での実施のほか、ロボット越しの遠隔コミュニケーションや、搬送ロボットを使った物品受け渡しなどについて実証を行った。
古谷
自律走行ロボットを用いて、屋内外での走行実証を行った。エレベーターとの連携やロボットがコーヒーを配ったりするなど、お客さまがいる中での実践的な実証は、非常に参考となった。この時の成果が現在竹芝地域で実施している公道での走行実証にもつながっている。ロボットに限らずスマートシティーの実現に意欲を持つ皆さまと協力して、スマートシティーのソリューションを今後も試していきたい。齊藤
発熱とマスク着用を検知するロボットの実証を行った。開発したロボットは当社のクラウド基盤に連携可能で、発熱者の特定だけでなく発熱状況の蓄積や分析まで踏み込み、現状把握と対策につなげられる。具体的には発熱、マスク未着用を検知した際、本人と施設管理者にアラート通知するほか、データをクラウドに送り、日時別の状況を見える化した。夕方になるとマスク未着用が増加するといったことを、ロボットと連携して注意喚起することも可能になる。実証テーマ
多種多様なロボット連携による安心・安全なエリアマネジメント実現に向けた実証
hapiーrobo st社長・富田直美氏
宇都宮大学/アイ・イート 尾崎功一氏
統合的に管理
個々の業務を多種多様なロボットを用いて実施しつつ、それらのロボットを統合的な管理基盤につなげることが実証のポイントで、HANEDA INNOVATION CITYでロボット11種が参加して実施した。飲料をテーブルに運ぶといった配膳、ロボットが巡回する警備や、施設の管理システム上にロボットの位置をリアルタイムに表示し、施設内の状況を遠隔から把握してロボットを注意喚起に向かわせる、といった実証を行った。ロボットの運用を統合するのに、その都度ロボット間の接続を考えるようでは困難も多く、実運用に向けさらに工夫も必要となる。
富田
施設内の行き先を音声もしくはタッチパネルで指定し、ロボットが自動走行して案内する実証を行った。公共の場でロボットを利用するには安全性と利便性が大切だ。パーソナルロボット「temi」は自分でマップをつくり、自動走行して遠隔からでも幅広いサービスを提供できる。ほとんどの動作は人の発話だけで行え、ユーザーの年齢、ITリテラシーなどは無関係だ。病院、サービス業などで活用されるようになると、人手不足などの課題を解決できる。尾崎
ロボットが街に出てきた場合に自律走行できるよう、環境中にある残留磁場の乱れを使ってナビゲートする。街並みと磁気強度を合成した「磁気地図」を作り、ロボットを見守り警備のために自律走行させた。地図上の壁にガラス窓があると、レーザーが通過して室内磁気を測定してしまうなど、難しい点もわかった。消毒機能を搭載したり、街中でのサービス提供なども期待できると思う。今後は街に調和するようなロボットを実現したい。実証フィールド
最先端技術のショーケース
東急不動産 都市事業ユニット都市事業本部 スマートシティ推進室課長補佐・渡邉聡氏
鹿島建設 開発事業本部 事業部事業部長・加藤篤史氏
実証の場となった東京ポートシティ竹芝、HANEDA INNOVATION CITYにおけるユーザー側からの手応えも発表された。
渡邉
20年9月に開業した東京ポートシティ竹芝は、総面積20万平方メートルの大規模再開発事業だ。中心となる協議会は情報通信、メディア、エンターテインメントなど50社の企業・団体と研究開発やビジネスマッチングに取り組んでいる。オフィスタワーをスマートビルにして、警備や清掃を行うロボットを実装している。テクノロジーを活用したまちづくりとして、竹芝をわくわく感のある街にして、エリア全体を世界に発信する東京発の最先端技術のショーケースとしていきたい。加藤
HANEDA INNOVATION CITYは、かつて羽田空港が発祥した地の5万9000平方メートルで、当社など9社連合が、羽田みらい開発という開発会社を作り、事業を進めている。データ連携基盤を構築し、自動運転のモビリティーや、自立移動で動き回るロボットの情報を、リアルタイムで可視化して、一括制御する。これらが動いたデータを収集して分析し還元することが目標だ。施設の設計時からロボットの運用を見越した設備投資計画が必要だし、完全無人を目指した規制緩和も必要となるだろう。ニューノーマルにおけるロボットに期待する。(2021/3/4 05:00)