(2021/7/7 05:00)
哲学者にして記号学者、文芸評論家、そして小説家と、イタリアの故ウンベルト・エーコは実に多彩なフィールドで活躍した。そして新聞をはじめとするメディアへの造詣も深かった。
エーコが没してまる5年。遺作となった小説『ヌメロ・ゼロ(ゼロ号)』は新聞社が舞台。発刊の予定がない新聞のパイロット版編集に6人の記者が集められた。彼らの作業は2カ月前(!)の新聞作りだ。
記者は何も知らされておらず、ある記者は独裁者ムッソリーニの死にまつわる調査報道を試みるが、不審死を遂げる。
1992年のイタリア。空前の政治汚職が発覚して逮捕者が相次ぎ、全土が震撼(しんかん)した。ヌメロ・ゼロでは関係者がほぼ実名で登場する。ただ事実に基づく部分とエーコの創作が複雑に入り交じり、読者は迷路に迷い込んだような錯覚を覚える。
「新聞はうそをつく。歴史家もうそをつく。テレビもうそをつく」「新聞はニュースを広めるためではなく包み隠すためにある」。耳の痛い話が満載だが、新聞を指弾するためにこの作品を書いたわけではなかろう。情報過多時代への疑問や真実を見る目の必要性を問いかけている。コロナ禍の現代にも通じる。続編を読んでみたかった。
(2021/7/7 05:00)
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