(2021/7/30 00:00)
防災備蓄食品は、自治体から条例などで帰宅困難者のために1人1日3食3日分を保有するよう事業者に要請されているため、私たちの身近なところに大量にストックされている。災害が起きなければ幸いであるが、無ければ入れ替えの際に行き先がないのが現状で、リデュースとリサイクルで有効活用、つまり眠っている防災備蓄食品を活用することが求められている。
食品ロス・リボーンセンター 代表理事 山田 英夫
「眠っている防災備蓄食品=災害が起こらなかった場合に入れ替えられる消費期限前の物」の量は、日本全国で金額にしておおよそ1000億円相当。6月16日に閉会した国会でも都道府県、市町村合わせて米だけでも1・3万トン、乾パンで1760万食といった公的な備蓄が行われていると答弁された。
食品が備蓄されているのは自治体に加え、学校や病院、マンションなど多岐にわたる。災害が起きなければ毎年、民間の帰宅困難者対策分を合わせた膨大な量の5分の1相当が行き場を失う。賞味期限が5年のものが多く、都度入れ替えされるため、それらの行き先を探すことが必要になる。防災訓練などで住民や社員に配布されることはあるものの、多くは今まで掛け捨て保険のように焼却廃棄されてきた。我々のそばにある備蓄食品は、実は身近な食品ロスと言える。
この問題解決を図るため食品ロス・リボーンセンターは、東京都に提案しモデル事業を受託。日本で一番災害備蓄食品を保有するといわれる東京都の備蓄食品を「発生抑制(リデュース)」と「食品リサイクル」によって有効活用を図った。2016、17年度に東京都福祉保健局と総務局防災部から提供してもらった食品(1カ月弱で150トン)を福祉施設やこども食堂などへ引き渡した。現在は、そのスキームで東京都内の自治体、大手企業と協定を結び備蓄食品の入れ替えをサポートしている。
直接提供のリデュース拡大
廃棄せずに生かす方法(リデュース)として、フードバンクが頭に浮かぶだろう。流通経済研究所のフードバンク実態調査事業報告書によると、全国で116団体が活動しており、その食品取扱量は合計2850トン(18年)となる。リデュースは、フードバンクはもとより中間支援団体として都内の福祉施設や子ども食堂、自治会、民間非営利団体に直接寄贈するほか、地方の社会福祉協議会やフードバンクの災害支援ボランティアにも寄贈を行っている。また都内の小中学校で防災備蓄食品を活用した給食を提供し、食べることを通して、食品ロス問題を理解するとともに削減につなげてもらう活動を行っている。
リサイクル(飼料化)の輪を推進
賞味期限が切れで引き取り先がない場合や、保管状況が良くなくて食べられないものもある。そういった備蓄食品を廃棄せずに食品リサイクルしようと思っても、缶やレトルトパウチなど保存するための包装資材がネックになり、焼却処分するというケースがある。
アルファ化米(乾燥した米)などをはじめ、防災備蓄食品のほとんどは豊富な栄養を含んでいる。こうした栄養を無駄なく活用するために、国内ではさまざまな食品リサイクル方法の中で、飼料化を優先的に行っている。
当団体では備蓄食品の適正な飼料化を行うため、障がい者就労支援施設の方々に中身と容器を分ける作業をお願いし、日本フードエコロジーセンター(相模原市中央区)のリサイクル工程にまわしている。分別や破砕、殺菌などの処理を経て、エコフィードに加工する。同センターでは液体飼料を製造し、タンクローリーで養豚農家に届けられる。
育てられた豚の肉は、都内スーパーの店頭に並び学校給食にも使われている。この豚肉や備蓄食品を使った給食を通して、食品ロスの問題や資源循環の仕組みを学ぶという食育を推進している。リデュースとリサイクルをつなげる輪が徐々に大きくなっている。
災害大国といわれる日本において、防災備蓄食品は非常に重要なものである。その活用方法や時代に合った備蓄方法が、食品ロス削減への一つの道筋になると考えている。
最近ではコロナ禍のオフィス見直しに伴う備蓄食品の放出がある一方で、マンションでの備蓄の見直しも発生している。当団体は、備蓄する前から管理や使い方の相談に乗り、多くのニーズに応えるため尽力している。いざという時の防災備蓄食品の“その後”を通して、食品ロス削減の重要性を広め、また災害のない明日を思う人々のお手伝いをしていきたい。
(2021/7/30 00:00)