産業春秋/85歳の震災語り部

(2021/9/14 05:00)

「東日本大震災から10年の節目というのに記念事業は何もできずにいる」。宮城県東松島市の関係者は新型コロナウイルスの感染拡大が恨めしそうだ。

復興で街の景色は一変した。仙石線は高台に付け替えられ、津波で被災した旧野蒜(のびる)駅舎は東松島市震災復興伝承館になり、あの日の記憶を伝えている。ぐにゃりと曲がった線路や外灯が倒れかけたままのプラットホームは津波のすさまじさを物語る。

奥さんを津波で亡くした武田政夫さんは「避難したら絶対に自宅へ引き返してはいけない。戻った人はみな帰らなかった。自己判断はしないこと」と話す。奥さんは自宅に残してきた犬を連れてこようと帰宅した。

堅固な防潮堤ができ街の整備もほぼ完了し、これで一安心という市民もいる。だが自然の脅威は時に人知を超える。自然災害は記憶の風化との闘いでもある。武田さんは震災を経験していない世代が増えていることを気にかける。

伝承館の隣に建つモニュメントには犠牲者の名前を刻んだ銘板が納められている。御霊に報いる道は伝承の明かりをともし続け、悲劇を繰り返さないようにするしかない。武田さんは85歳になる今も企業を回り、震災の語り部を続けている。

(2021/9/14 05:00)

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