産業春秋/平和への祈り

(2022/3/10 05:00)

「早く逃げるのよ」。母の叫び声で跳び起きた。布団をかぶり家族で現在の江東区大島の自宅を出ると、隅田川の方角は火の海だった。火の粉を振り払いながら、旧中川の土手にたどり着いた。

1945年3月10日の東京大空襲は、書籍出版業羊群社(東京都練馬区)社長の増沢康年さんの脳裏に焼き付いている。空襲警報は慣れっこだったが、その夜は様子が違っていた。両国から錦糸町へ猛火が大波のように押し寄せてくる。

戦禍は容赦なく襲いかかる。国民学校3年の増沢さんは山形県に学童疎開し、父母と3人の兄弟は群馬県高崎市へ。だが8月14日の空襲で防空壕(ごう)は直撃を受け、家族全員が亡くなる。戦後、位牌(いはい)と対面し事実を知る。

戦災孤児となった増沢さんは、心優しい叔父夫婦に育てられる。早稲田大学で工業経営を学び、合板会社に就職。常務に昇進した。26歳でキリスト教に入信し、85歳の今は聖書キリスト教会の長老を務める。ロシアによるウクライナ侵攻に心を痛め、平和への祈りの日々が続く。

「罪深いのは戦争であって米国人を憎んではいない」。インターネット上でロシア人に対する誹謗(ひぼう)中傷の書き込みが絶えない。増沢さんの願いを届けよう。

(2022/3/10 05:00)

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