産業春秋／ウクライナを“シャム王妃”にしない

１４２年も前のシャム（現在のタイ）のタブーを思い出した。１８８０年、１９歳だったスナンダ・クマリラタナ王妃が幼い娘（王女）とともに川で溺死した話。夏をバンパイン宮殿で過ごすためボートで移動していたところ転覆したという。

大勢の使用人やボディーガードがその場にいながら誰１人助けようとしなかった。「王妃に触れた者は死刑」という当時の王室の厳格な規制が２人の尊い命を奪ったのだ。

ロシアのウクライナ侵略をめぐり、西側諸国が使用人やボディーガードのように映る。直接的にウクライナに軍事で手を貸すことができず、動こうに動けない。ジレンマを抱えながらウクライナ民間人の悲劇を見つめるしかないのが実情だ。

北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）加盟国は、ウクライナへの武器供与など間接的な支援にとどめロシアとの交戦回避に努める。金融・経済面でも、金融資産の凍結やロシア産石炭の段階的な輸入禁止など、外貨獲得の機会を奪う兵糧攻めだ。

タブーとは道徳的に容認できない行為。ロシアは時に核兵器をチラつかせ西側諸国をけん制する。タブーにタブーを重ねるロシアと戦闘状態のウクライナ。肌に触れずに救出できるなら救出したい。