(2022/6/6 05:00)
政府は7日、岸田文雄政権の看板政策「新しい資本主義」実行計画を閣議決定する予定だ。経済のパイを拡大する成長戦略を推進し、成長の果実を適切に分配して分厚い中間層を形成する内容になるはずだった。だが参院選を控えてか、成長一辺倒の施策が並び、痛みを伴う分配戦略が影を潜めたのは残念だ。
与党が参院選を制すれば、岸田政権は向こう3年間、国政選挙がない。「果実」の分配先を明確に示してもらいたい。
新自由主義の下で進展したグローバル化は、経済格差の拡大や気候変動問題、さらに経済安全保障リスクを誘発した。成長の果実が富裕層に偏るなど、適切に分配されない「目詰まり」が成長を阻害してきた。岸田政権が「成長と分配」に軸足を移そうとした視点は正しかった。
だが実行計画案ではアベノミクスの「3本の矢の枠組みを堅持する」意向が示され、成長の果実の配分について踏み込んだ言及はなかった。
官民連携で経済のパイを拡大させること自体は評価されよう。具体的な成長戦略として、人的資本、科学技術・イノベーション、スタートアップ、デジタル変革(DX)・グリーン変革(GX)の4本柱に重点投資するという。これらへの投資により、経済格差や脱炭素、労働人口減といった社会的課題を解決しつつ、経済成長も実現する「二兎(と)を追う」考え方は今後、重要性が高まるはずだ。
ただ適切な利益分配で分厚い中間層を形成できなければ、個人消費を起点とした持続可能な経済好循環は実現しない。
政府は個人金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる「資産所得倍増」プランも打ち出した。少額投資非課税制度(NISA)などの抜本的な改革を検討するという。だが株式投資で分厚い中間層が実現するとは想定しにくく、むしろ投資に熱心な富裕層をさらに肥やしかねない。金持ち優遇とも指摘される金融所得課税の見直しも見送っており、中間層の形成よりも株式市場への配慮がにじむ。
岸田政権にはブレのない施策の実現を求めたい。
(2022/6/6 05:00)