(2022/8/22 05:00)
通信障害に見舞われた緊急時に、他の携帯事業者の回線を利用できる「ローミング」。このサービスの実現に向け、総務省は9月に検討会を立ち上げ、年内に基本的な方向性をまとめる。2011年の東日本大震災後に重要性が指摘されながら、これまで対策を講じてこなかった。119番の緊急通報をはじめ、携帯電話を継続的に利用できる環境の整備を急ぎたい。
東日本大震災当時、携帯各社の第3世代(3G)携帯電話の通信方式が異なっていたためローミングは難しく、議論は棚上げされてきた。だが4G以降は通信方式が統一された。KDDIの大規模通信障害を教訓に、ローミングの議論が再開されることを評価したい。ただ、それまでにNTTドコモやソフトバンクでも通信障害が起きていたことを振り返えれば、対応の遅れを指摘されても仕方あるまい。
ローミングを実現するには複数の課題もある。数千万人に及ぶ他社の契約者を自社の回線で補うことは可能なのか、事業者間で一定のルールを定める必要があるのではないか。また緊急通報(110番や119番など)を利用するには、警察や消防が発信者に折り返し発信できる「呼び返し」機能が求められているが、ローミングの場合はどのように対応するのだろうか。これらの課題を一つひとつ乗り越える必要がある。
他方、携帯各社の回線が一斉に使えない事態にはどう対処するのか。短時間で復旧できる危機管理体制を政府と業界が模索し続ける姿勢も問われよう。
KDDIによる7月の大規模通信障害は、3000万人超の契約者に影響が及び、全面復旧までに約86時間を費やした。影響は携帯電話通信にとどまらずIoT(モノのインターネット)関連など広範に及んだ。
総務省は電気通信事故検証会議で事故原因や再発防止策の検証に着手しており、10月までに検証結果をまとめる。移動通信は生活基盤を超えた社会基盤となり、産業界はデジタル変革(DX)に企業成長を託している。通信網の安全・安心には万全を期してもらいたい。
(2022/8/22 05:00)