(2023/1/9 05:00)
贈与税改革は富裕層の相続対策にとどめず、中小企業の事業承継への目配りも必要だ。
2023年度の税制改正は、防衛費増額の財源の決定を先送りしたことから増減収規模は小さなものとなった。一方、制度面では大きな変化があった。その一つが贈与税の改革である。
相続に先立ち、資産を毎年少しずつ贈与して納税額を減らす生前贈与が富裕層を中心に広く利用されている。相続発生から3年前までの贈与は否認され、相続に加算して税額を計算する仕組み。この加算期間を「相続前7年間」に延長した。
一方、資産のまとまった部分を生前贈与し、税額を相続後に一体計算する「相続時精算課税」に基礎控除を新設して使いやすくした。この制度は後継者に早い段階で株や土地を渡し、バトンタッチすることを想定したものだが、あまり使われていないのが実情だ。
いずれも通常国会での議決後に施行する。贈与と相続を一体化し、生前の過度の「相続対策」を防ぐ狙いがある。
贈与税や相続税は個人課税であり、産業界でも経団連は特に意見をしていない。一方、日本商工会議所は細かな制度改革を要望している。贈与や相続が、中小企業の事業承継に大きく関わるからである。
中小の事業承継は、期間限定ながら18年に大幅に要件を緩和。また19年には個人事業向けの制度も創設した。「特例承継計画」を都道府県庁に提出することで、贈与や相続時の課税を次世代に先送りして「実質ゼロ」にするものだ。
極めて優れた制度で、利用も伸びている。しかし零細企業や個人事業では個人の資産と事業用資産の区分けが難しい。個人の所有地に法人の工場があったり、事業上の借入金に代表者が担保を提供したりするケースは珍しくない。これらは事業承継税制では考慮されず、普通の贈与や相続となる。
23年度税制改正の贈与税改革が富裕層の相続対策だけでなく、零細な事業の承継に悪影響を及ぼすことを恐れる。政府には細やかな運用を望む。
(2023/1/9 05:00)