(2023/3/29 05:00)
理化学研究所などが開発してきた国産初の量子コンピューターが27日稼働した。同コンピューターはクラウド公開され、外部から利用できるため、大学や企業との共同研究が加速する効果が期待される。運用の経験・ノウハウを蓄積することで、ハードウエアの高機能化にとどまらず、コンピューターを利用するためのソフトウエアの開発、企業による用途開拓、量子技術を担う人材育成を加速したい。ハードウエアで先行する米中を追いかけつつ、実用化・産業化に向けた歩みを進めたい。
国産初号機となる今回の量子コンピューターは、政府が2018年度から約25億円を投じ、理研を中心に開発してきた。量子コンピューターの開発は米欧が先行しており、米グーグルはスーパーコンピューターが1万年かけて解く計算を200秒で実現したと19年に発表。中国もスパコンを上回る「量子超越性」を達成しており、日本も「ゲームチェンジャー」となる可能性がある量子技術で存在感を高めることが期待される。
量子コンピューター実用化への道のりは遠いものの、今回の国産初号機の稼働を大きな一歩としたい。新素材開発や創薬、金融、交通・物流などでの用途が想定されるほか暗号読解も可能とされ、安全保障上からも研究開発を強化する必要がある。
政府は6月にも「量子未来産業創出戦略(仮称)」をまとめる。量子技術の実用化・産業化に向けた方針・実行計画を盛り込む。実用化・産業化には多様な産業の参画、産業界への量子コンピューターの公開、積極的なベンチャー・新規事業の創出支援などが重要だと指摘する。今回の国産初号機の稼働を機に、量子コンピューターのハード開発にとどまらず、産業利用に向けた環境整備を急ぎたい。
政府は22年にまとめた「量子未来社会ビジョン」の中で、30年目標として1000万人が量子技術を利用する環境の整備、量子技術による生産額50兆円規模の達成を目指している。目標を前倒しする勢いで戦略を推進し、産業界の成長機会の創出につなげることが求められる。
(2023/3/29 05:00)