(2023/6/8 05:00)
岸田文雄政権の看板政策「新しい資本主義」実行計画の改定案には、二極化する中小企業政策が盛り込まれた。スタートアップを育成する一方、過剰債務に悩む中小企業の私的整理を促す法制度を早期に国会に提出する。スタートアップが新たな価値創造を担い、経営が厳しい中小企業は事業再構築を進めることで、産業全体の活力と成長を促すことが期待される。
改定案によると、企業の開業率・廃業率の合計が高い国ほど1人当たり経済成長率が高い。日本の開業率は5・1%(2020年)と、欧米の10%前後と比べ見劣りする。日本はスタートアップの開業を促し、デジタル変革(DX)やグリーン・トランスフォーメーション(GX)などの成長事業を拡大したい。
政府は今後5年でスタートアップ10倍増を視野に、年末に5カ年計画をまとめる。公共調達でスタートアップを積極活用するほか、報酬制度の一つであるストックオプション(自社株購入権)の使い勝手を良くする施策などで開業を促す。スタートアップの意欲的な新規参入や、ユニコーン(企業評価額が10億ドル以上で創業10年以内の未上場企業)の誕生に期待したい。
一方、実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などの過剰債務に苦しむ中小企業に対し、事業再構築を容易にする私的整理法制を早期に整備する。債権者全員の同意がなくても、多数決により債務減額などが可能になる制度で、早期に事業再生に向かえる利点がある。認定支援機関による伴走支援を条件に、経営者の退任を求めない事業再生を推進するという。
ただ債務減額に反対した少数派の債権者の債権が守られない問題があるほか、債務の減額や放棄が事業再構築につながるかは不透明だ。政府は債権者を混乱させない私的整理法制に仕上げてもらいたい。また改定案で示されたように、中小企業が経営不振の事業から撤退し、経営資源を成長事業に投入することが事業再構築には欠かせない。既存の中小企業とスタートアップとの連携も推進し、産業界の新陳代謝を高めていきたい。
(2023/6/8 05:00)
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