(2023/6/14 05:00)
日本の電気自動車(EV)が中国や欧米に後れをとっている。EVのゲームチェンジャーとされる全固体電池の実用化・量産技術で世界をリードし、EV市場で巻き返しを図りたい。
全固体電池は電解質に液体でなく不燃性の固体を使うため安全性が高く、短い充電時間で航続距離を伸ばせる利点がある。
トヨタ自動車は2027―28年にもEV向け全固体電池の実用化を目指す方針を明らかにした。日産自動車は28年度、ホンダも20年代後半の実用化を目標に掲げる。トヨタは全固体電池の耐久性向上にめどを付け、現行EVに採用しているリチウムイオン電池(LiB)より航続距離を2・4倍に伸ばすという。実用化に期待したい。
全固体電池は実用化後の量産による低コスト化が勝負のカギを握る。EV向けLiBの轍(てつ)を踏まず、普及局面でシェアを拡大したい。同LiBは開発や実用化の初期段階で日本が世界をリードし、普及段階で中韓に逆転された苦い経験がある。
富士経済によると、全固体電池の22年の世界市場は約60億円にとどまり、40年に3兆8605億円に拡大すると予測する。EVなどへの搭載が進み、LiBから置き換えられるとみる。この成長市場で日系企業の存在感を高めていきたい。
経済産業省は22年8月にまとめた蓄電池産業戦略の中で、蓄電池は50年のカーボンニュートラル実現のカギを握るとし、30年までに蓄電池の供給網全体で3万人の関連人材を育成する。車載用・定置用蓄電池の国内生産能力も現状比8倍に増強するとした。全固体電池の気候変動への貢献も期待される。
政府は22年末、経済安全保障推進法における「特定重要物質」に蓄電池など11分野を指定することを閣議決定している。国内生産体制の強化と備蓄の拡充により、全固体電池を含む蓄電池の安定供給体制も官民で確保することが求められる。
内閣府は「日本経済2022―2023」の中で、日本のEVの取り組みの遅れに警鐘を鳴らした。全固体電池の実用化を起点に反転攻勢に転じたい。
(2023/6/14 05:00)