(2023/7/31 05:00)
2023年度の最低賃金の目安が初めて時給1000円(全国加重平均)を超えた。前年度の同961円を41円上回る1002円で、引き上げ幅も過去最大。物価上昇に賃上げが追い付かない中、意欲的な引き上げを実現できたと評価したい。
ただ経営環境が厳しい中小企業には大きな負担増となる。政府は、人件費の増額分を取引価格に転嫁する環境を整える方針を決めている。中小が賃上げ原資を確保できるよう、この方針を確実に実施してもらいたい。
岸田文雄首相は3月、8年ぶりとなる政労使会議を官邸で開催。堅調な23年春闘の流れを中小企業にも波及させようと、経団連や日本商工会議所、連合の代表らに最低賃金を1000円に引き上げる目標を伝えた。政府介入による“金額ありき”の感は否めないが、韓国をも下回る最低賃金の増額が急務なのは理解できる。今春闘と最低賃金の大台乗せを、構造的な賃上げに向けた起点としたい。
中小企業は人手不足対策として、経営が厳しい中でも23年春闘で意欲的な賃上げに動いた。連合によると従業員300人以下の中小組合の平均賃上げ率は3・23%と、比較可能な13年以降で最も高い。ただ、これに最低賃金の増額も加わることで、中小企業の支払い能力が懸念される。中小企業はエネルギーや原材料価格の高騰分はある程度価格転嫁できているが、賃上げ分を転嫁できていない。この課題を解消する必要がある。
政府は6月に決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)に、賃上げ分を取引価格に上乗せする価格転嫁を推進する方針を盛り込んだ。賃上げ分の転嫁状況を業界ごとに実態調査し、業界団体に自主行動計画の改定・徹底を求める。また賃上げ促進税制が適用されない赤字企業による賃上げは、税制を含め別途対策を検討する。政府には機動的な実施を求めたい。
中小企業が持続的な賃上げを実現するには価格転嫁だけでは不十分だ。デジタル変革(DX)による生産性向上や新価値創造など、中長期の視点で収益構造を強化する必要がある。
(2023/7/31 05:00)