コロナ禍と戦禍でみるSCM、“もろ刃の剣”の性質も

(2023/12/27 12:00)

2023年が間もなく終わる。明かりが照らす街のにぎわいに平和を感じつつ、そのもろさに一抹の不安を感じる年の瀬でもある。本連載では「変容」をテーマに社会のさまざまな変化をサプライチェーン・マネジメント(SCM)の観点から取り上げてきた。これらを俯瞰(ふかん)するとどのような1年といえるのだろうか。本年を省察してみたい。

  • コロナ禍収束の背後には3年間にわたるワクチン供給のための汎産業的なオペレーションの連携があった(イメージ)

1月、世の中はまだコロナ禍が収束しておらず行動が制約されていた。コロナ前の行動様式が解禁されたのは5月初旬のことであった。その背後には、3年間にわたるワクチンの適時生産・輸送・摂取(消費)を実現した汎(はん)産業的なオペレーションの連携があった。

その一方で、新たな問題状況が生まれた1年でもあった。ウクライナとロシアの問題は深刻さを増し、10月にはパレスチナとイスラエルの問題も武力を伴う形で顕在化した。これらの地域では水・電気といったライフラインが攻撃の対象になっていると聞く。

両者に共通するのは問題状況が人々の暮らしに不可欠な仕組みであるサプライチェーン(供給網)に根差していることだ。異なるのは、前者では問題状況を解消するためにSCMの知見が駆使されたのに対して、後者では積極的に問題状況を拡大するために用いられている点だろう。

サプライチェーンを個々の要素が相互に関連する仕組み=動的なエコシステムとして捉える考え方は1950年代にさかのぼる。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のジェイ・フォレスター教授が確立した「システムダイナミクス」を源流とする見方が有力だ。さらに歴史をたどるとSCMの基礎概念は教授が戦火の下で行った研究活動に行き着く。歴史的に見てもエコシステムに介入するための知見としてのSCMはもろ刃の剣としての性質を持っている。

社会の変容=トランスフォーメーションそれ自体は善しあしの評価になじまないが、背後にある意図については歴史の審判を受けることになる。今後もSCMが健全な市場競争の中で発展し、人々の暮らしを豊かで持続可能なものにする存在であることを願いたい。

◇著者:MTIプロジェクト 『基礎から学べる!世界標準のSCM教本(日刊工業新聞)』の著者である山本圭一・水谷禎志・行本顕の3氏によって創設された世界標準のSCM普及推進プロジェクト。MTIは「水山行」のラテン語の頭文字。本連載はメンバーのうちASCMのSCMインストラクター資格を持つ行本顕が執筆を担当

(2023/12/27 12:00)

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