(2024/2/5 05:00)
日本製鉄のUSスチール買収が、米大統領選挙を控え政治問題化している。トランプ前大統領による買収反対の表明に続き、全米鉄鋼労働組合(USW)は2日、バイデン大統領から買収反対の支持を得たとの声明を発表した。両氏とも労組の支持拡大を狙ったのは明らかだ。だが買収反対に合理的な根拠はなく、両氏の言動は不適切と言わざるを得ない。買収を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)に適切な判断を求める。
日鉄は2023年12月、約2兆円でUSスチールを買収することで両社が合意したと発表した。日鉄の高度な生産技術と、USスチールが持つ最先端の電炉技術を融合し、脱炭素を加速することは米国の国益にもかなう。米国内での生産強化は経済安全保障にも資するはずで、政争の具となったのは残念だ。
トランプ氏は1月31日、日鉄のUSスチール買収は「即座に阻止する」と語った。バイデン大統領も労組を意識し買収に慎重だったが、トランプ氏が「阻止」に踏み込んだことで慌てて追随したようだ。USWは2日、バイデン大統領から買収反対の「背中を押してくれる確約を得た」との声明を発表した。予測不能なトランプ氏の言動に半ば振り回されているバイデン大統領が、自身で買収反対にどう言明するかを注視したい。
日鉄による買収案件はCFIUSが審査する方針を示していた。審査に先立つ両氏の言動は明らかに勇み足である。大統領には買収を阻止する権限はないが、CFIUSの今後の判断に影響が及ばないか懸念される。
米大統領選は、共和党予備選でトランプ氏の優勢が続き、バイデン大統領との決戦でもトランプ氏優位の米世論調査が相次ぐ。バイデン大統領が労組票の獲得を急ぐ理由もそこにある。
民主主義や法の支配に基づく秩序を重視するバイデン大統領に対し、トランプ氏はビジネス感覚のディール外交で自国第一を優先し、大統領に返り咲けば世界の分断がさらに深まる。バイデン大統領は同氏との最大の相違点こそ強調し、保護主義への安易な傾斜は慎みたい。
(2024/2/5 05:00)