(2024/5/2 05:00)
大手企業は海外投資で得た利益を国内に還流させず、海外で再投資するケースが多い。少子化が進む国内市場は魅力がないためだ。だが、この経常収支の構造は円安の一因でもある。経済産業省は「2040年ごろ」の長期を見据え、国内企業はもとより海外企業が日本を投資先として選ぶよう、政策で後押しする。40年までを「巻き返す15年」とするため、経済界は国内投資とイノベーション(新機軸)に積極的に取り組みたい。
経産省は、日本経済が進むべき将来見通し(シナリオ)をまとめた。経済産業政策新機軸部会の第3次中間整理(案)によると、「失われた30年」が続くと日本は40年ごろに新興国に追い付かれると警鐘を鳴らす。一方、足元の日本経済は投資も賃金も物価も伸びる成長型経済へ移行しつつあるとも指摘。「政府も一歩前に出て、大規模・長期・計画的に投資を行う」とした。企業は政府支援も受けつつ、国内投資に目配りしたい。
日本経済の長期停滞は、経常収支の構造変化で示される。00年代前半は輸出増による貿易黒字が経常黒字を支えていた。だが00年代後半から日本企業の海外生産が加速する一方、国内投資が停滞。海外拠点で得た第1次所得収支の黒字が日本の経常黒字を支える構造に変わった。
輸出で得たドル建ての利益は円に換金される一方、海外拠点の利益はドルのまま海外で再投資され、構造的に円安に傾きやすくなった。第1次所得収支は国内総生産(GDP)にも反映されない。日本の名目GDPが25年にドル換算でインドに抜かれ、世界5位に転落する可能性があることにも留意したい。
第3次中間整理(案)では、国内投資とイノベーションを推進することで、成長分野で国内需要を喚起する必要があると説く。先端半導体や次世代電池、バイオ医薬品、経済安全保障などへの国内投資を加速し、スタートアップへの投資やグローバルサウスとの連携によりイノベーションを起こすことが期待される。魅力ある国内市場に再生することは、円の購買力を高めることにもつながるはずだ。
(2024/5/2 05:00)