(2024/5/17 05:00)
上場企業の2024年3月期決算は、当期利益の総額が3年連続で過去最高を更新する見通しだ。歴史的な円安が海外事業の利益を円換算で押し上げ、原材料高も製品・サービス価格に転嫁できた。ただ24年版中小企業白書・小規模企業白書によると、中小企業の労務費の増加分を取引価格に上乗せする価格転嫁が進んでいない。サプライチェーン(供給網)の“果実”を中小企業にも適切に分配することが親企業に強く求められる。
SMBC日興証券によると、東証プライム市場の上場1292社(金融を除く)のうち、10日までに発表を終えた720社の当期利益の総額は前期比14%増の33・5兆円に達した。
23年5月にコロナ禍から経済活動が正常化し、約34年ぶりの円安水準が輸出主導の企業を中心に追い風となった。円安に伴うインバウンド(訪日外国人)の増加も幅広いサービス産業の利益を押し上げた。原材料やエネルギー価格の上昇も製品・サービスの値上げで吸収できたようだ。上場企業の好業績は24年春季労使交渉(春闘)にも反映される。連合の要求を満たす5%超の賃上げ率に期待したい。
一方、国内事業が主体の中小企業にとって、歴史的な円安は大きな逆風だ。労務費や原材料の上昇分を価格転嫁できなければ十分な賃上げ原資を確保できない。10日に閣議決定された24年版中小企業白書・小規模企業白書によると、24年に賃上げを実施予定の中小企業は全体の61・3%。だが労務費の価格転嫁率は36・7%にとどまる。岸田文雄首相は、価格転嫁を「新たな商習慣」としたい意向だが、定着までは道半ばと言える。
白書は、賃上げ原資となる価格転嫁の重要性に加え、人材難を補う省力化投資や成長投資を促す。規模が小さい企業ほど省力化投資が進んでおらず、取り組みの余地が大きいと指摘。省力化投資は生産性向上と増収につながると分析する。また成長する中小企業ほど人的投資や設備投資、M&A(合併・買収)を行っている。中小企業は資金調達手段も検討しつつ、意欲的な投資行動に踏み出したい。
(2024/5/17 05:00)