(2024/5/31 12:30)
二酸化炭素(CO2)を大気や燃焼後排ガスから回収して再利用する炭素循環型社会が目指されている。2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を実現するためだ。ただ炭素の循環量や技術を正しく見積もることが難しい。九州大学発スタートアップのJCCL(福岡市西区、梅原俊志社長)はCO2分離回収・評価装置を実用化した。福岡市や大学の支援を受け、信頼性を武器に未来の巨大市場に挑戦する。
「世界に競合はたくさんいる。さまざまな回収材料が開発されているが、回収性能が再現しない。評価技術に課題があるためだ」。九大の星野友教授・JCCL取締役はCO2回収技術の課題を説明する。JCCLの強みはCO2回収材料にある。ヘモグロビンがCO2を捉える原理を高分子で再現し、低温でCO2を吸収・放出する材料を開発した。CO2濃度2%のガスを95%以上に、10%のガスは99%に濃縮できた。
それぞれコンバインドサイクル発電とガス火力発電の燃焼後排ガスを想定する。将来、火力発電の重心が石炭からガス、コンバインドサイクル発電へと移行し、排ガスのCO2濃度が下がっても回収できる。高濃度CO2の放出工程の水蒸気温度が50度Cと低く、低温廃熱を利用可能。回収コストが従来の4分の1になると試算する。
ただJCCLがまず事業化したのは評価装置だった。星野教授は「さまざまな回収材料の試験・評価依頼を引き受けてきた。ここで評価技術自体がまだまだ成熟していないと分かってきた」と振り返る。CO2回収材料は開発者と利用者で運転条件がずれると性能が出ない。特にガスと材料表面、材料内部の水分制御が難しい。JCCLは受託試験で技術力が評価され、装置の外販を決定。材料と評価装置でCO2回収技術の信頼性を支える考えだ。
JCCL自体は26年に1日300キログラムのCO2回収を実証する。システムはコンテナサイズで、容量は工場に設置される自家発電システムに相当する。梅原社長は「初期投資と耐久性に圧倒的な優位性がある」と説明する。10トンや100トン規模の大規模回収システムはエンジニアリング会社などとの協業で実現していく。
九大は回収したCO2から化成品を作る資源化技術や、炭素循環のライフサイクルアセスメント(LCA)評価との相乗効果で開発技術の価値を高める。脱炭素技術や経済性評価など、九大が蓄えた総合力を生かす。石橋達朗総長は「開発装置はLCA評価に不可欠。全国に配置できれば日本の全体の技術開発力が向上する」という。
開発を支援してきた福岡市の高島宗一郎市長は「世界のカーボンニュートラルに貢献してほしい」と期待する。技術開発では成果が出ており、次は大学の研究ポートフォリオや地域の産業・脱炭素政策と相乗効果を出せるかどうかだ。海外では補助金やカーボンクレジットで事業者を優遇している。産学官で世界への挑戦が始まる。
(2024/5/31 12:30)
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