(2024/6/14 12:00)
エレックス工業(川崎市高津区、内藤岳史社長)は、次世代のマイクロ波放射計「超広帯域電波デジタル干渉計」(SAMRAI=サムライ)を開発する宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトに参画している。地球上のさまざまな自然現象の高精度観測と予測の実現に向け、SAMRAI搭載の人工衛星を宇宙に打ち上げる計画。エレックス工業は強みの高速アナログ・デジタル(AD)変換技術などを生かし、観測機器の高性能化や小型化に貢献する。
JAXAのSAMRAIプロジェクトは、マイクロ波を手がかりにした衛星地球観測技術の開発を目指すもの。海水の温度や大気の水蒸気量など、地球上のさまざまな自然現象の変化にはマイクロ波の放射が伴う。宇宙からこのマイクロ波の放射を高度に捉え、自然現象の観測や予測を高精度化するのがプロジェクトの狙いだ。
それを実現する観測機器としてJAXAが開発するのがSAMRAIで、幅広い周波数のマイクロ波を同時に測定できる。通常は観測目的により受信するマイクロ波の最適な周波数は異なるが、SAMRAIは1ギガ―40ギガヘルツの広帯域に対応し、複数の情報の同時観測が可能になる。
SAMRAIの開発に携わってきたエレックス工業の内藤社長は「既存のマイクロ波放射計に比べると対応する帯域のケタが違う」と技術レベルの高さを説明する。広帯域のマイクロ波観測を実現するにはAD変換の高速化がポイント。既存のAD変換技術では機器が大型化する課題があった。SAMRAIでは毎秒280億回の高速AD変換技術を用いることで、観測機器の小型化と高性能化が実現した。
JAXAはSAMRAI搭載の人工衛星の実証機を2027年度に打ち上げる計画。これまで、SAMRAIのプロトタイプを作製し、地上で実証実験を進めてきた。プロトタイプ製作に携わってきたエレックス工業は、実証機に搭載するSAMRAIの製作もJAXAから受注。24年度にも製作に着手する予定で、「進捗(しんちょく)は順調」と内藤社長は手応えを語る。
とはいえ、エレックス工業にとって宇宙空間で使用される機器の製作は初めて。急激な温度変化や激しい振動にも耐え得る機器の製作には困難も多いという。内藤社長は「最初は宇宙空間の怖さを理解するなど、一から勉強して製作に取り組んでいる。JAXAとともになんとかハードルを乗り越えたい」と意気込みを語る。
電波天文観測や情報通信分野などの電子機器を製作する同社にとり、宇宙関連プロジェクトへの参画はビジネスチャンスの拡大につながる。マイクロ波放射計は宇宙用と並行し、地上用の開発も推進。地上用は市販する量産機が完成し、市場投入準備が整う。内藤社長は「新たな技術に挑戦するのが好きな人材がそろうのが当社の強み。これを生かし、今後も宇宙分野のモノづくりに取り組む」と事業拡大に意欲を見せる。
(2024/6/14 12:00)
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