(2024/8/26 05:00)
スパイ容疑で拘束されているアステラス製薬の日本人男性社員が、中国の検察当局にスパイ罪で起訴された。起訴内容が明らかにされないまま、長期拘束される可能性がある。根拠が不透明な起訴は到底納得できず、中国の対応を強く非難する。日本企業の対中ビジネスを脅かすだけに、日本政府は引き続き中国政府に早期解放を求めつつ、予見可能なビジネス環境を整備するよう強く迫ってほしい。
中国当局は2023年3月に男性社員をスパイ容疑で拘束、逮捕した。日本政府が早期解放を繰り返し訴えるも、今回の起訴に至った。14年の反スパイ法施行以降、少なくとも17人の日本人が拘束された。23年7月に施行された改正反スパイ法ではスパイ行為の定義が拡大し、取り締まりもそれまで以上に強化された。どのような行為が違法かが不明で、中国の恣意(しい)的な運用には警戒する必要がある。
中国当局は疑いがあれば手荷物や通信機器などを強制的に調べ、スパイ行為の情報提供者は表彰される。日本企業は通信機器が中国政府に盗聴される可能性も念頭に、現地での撮影やインターネット検索・保存などにも気を配る必要がある。正常なビジネス環境にはほど遠い。
7月に開かれた中国共産党の「第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)」では、社会の安定維持に向け「国家の安全」を重視する方針が示された。習近平政権はスパイ摘発を強化する意向で、懸案の不動産対策よりも統治強化が強調されている点には留意が必要である。
中国の反スパイ法や米国の対中規制により、対中直接投資が減少している。23年は前年比で8割も減った。中国の威圧的な行動が続く限り、外国企業の中国離れに歯止めがかからず、中国経済は縮小に向かうと習政権は真剣に受け止めるべきだ。
日中間には、東京電力福島第一原子力発電所の処理水問題、日本産水産物の輸入禁止措置、日本への短期滞在ビザ(査証)の免除停止など、課題が山積する。“ポスト岸田”は毅然とした態度で中国に臨み、戦略的互恵関係のあり方を模索したい。
(2024/8/26 05:00)