(2024/11/29 12:00)
東北大学とアイシンは、大容量の磁気抵抗メモリー(MRAM)を搭載したエッジ領域向けの人工知能(AI)半導体を共同で開発した。相補型金属酸化膜半導体(CMOS)とスピントロニクス技術を融合し、従来比10倍以上の電力効率を持たせられることを動作シミュレーションで確認した。動作時や待機時の電力が減り、起動時間も短縮できる。電力効率の改善は二酸化炭素(CO2)排出量の削減にもつながる。
生成AIやビッグデータの活用などにより、ネットワーク上のデータ量が爆発的に増大している。クラウド領域とは異なり、情報処理に必要な電力や環境に制約のあるエッジ領域の用途に適したデバイスが求められる中、東北大とアイシンは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトでエッジ領域に適した半導体を開発した。
共同チームは、既存のCMOS技術の課題である待機時の電力を、スピントロニクス技術によるMRAMの不揮発性を利用して大幅に減らすことを目指した。大容量MRAMをエッジ向けAI半導体の内部メモリーとして使い、従来の動作過程を省くことで高い電力効率を確認した。
具体的には、内部メモリーと重みメモリーにMRAMを用い、演算回路とプログラム、データが格納されているメモリーを極限まで近傍に置く構造「ニアメモリー・コンピューティング構造」を構築。既存の外付けフラッシュメモリーのバス帯域不足を解消し、アプリケーションプロセッサー上のソフトウエア起動時の多くのプロセスを削減するなど、エッジAI用プロセッサーの課題を解決する実証チップを設計した。
実証チップには、東北大の国際集積エレクトロニクス研究開発センターが開発した低消費電力のAIアクセラレーターを搭載。「主要メモリーにMRAMを使い、従来のSRAMに比べて面積効率と電力効率を高め、待機電力と動作電力を大幅に減らした」(東北大電気通信研究所の羽生貴弘教授)。不揮発化により重みメモリーへのロード時間も削減でき、AI処理システム全体を高速に起動できるようになった。
アイシンはこれらを統合した実証チップのシステム設計を担当。アプリケーションプロセッサーの内蔵メモリーとして大容量MRAMを採用し、電力効率を高めるとともに、起動時間を10分の1以下に短縮できることを動作シミュレーションにより確認した。外付けメモリーの容量も圧縮できることで、チップの小面積化や低消費電力化にも寄与する。実証チップには、台湾積体電路製造(TSMC)のMRAM混載に対応した次世代16ナノメートル(ナノは10億分の1)プロセスを用いた。
NEDOと両機関は今後、このエッジ向けAI半導体を車載機器やサーベイランス(監視)システムなどに応用を目指す。エッジのAI処理で電力効率を改善し、「CO2排出量を減らすシステムの検証を進めたい」(NEDO)としている。
(2024/11/29 12:00)
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