(2024/11/29 12:00)
近年、低軌道に限らず月や火星を目指す有人探査ミッションが注目されている。日本も有人与圧ローバーの開発を進め、月面での有人探査に乗り出す。人が滞在する空間の環境を維持するには詳細な管理が必要で、できるだけ小型で軽い装置が求められる。ボールウェーブ(仙台市青葉区、赤尾慎吾社長)は、気化しやすい分子を解析する「ガスクロマトグラフィー」の超小型化に成功した。有人宇宙探査での実用化を目指す。
ボールウェーブは東北大学発のベンチャー。小型で高速、高感度な測定ができるガスクロマトグラフィーを実現する「ボールSAWセンサー」という技術を持つ。一般的に、ガスクロマトグラフィーは手軽に持ち運びができないくらいの大型装置だが、開発した装置は大きさが縦13・3センチ×横8・8センチ×17・4センチメートル、重さ2キログラム。超小型化でき、地上応用製品として食品・バイオ産業の品質管理などへの活用を見込んでいる。
ボールSAWセンサーは、検出器に微小な水晶球を使っており、その表面に超音波の一つである弾性表面波(SAW)を帯状に閉じ込めている。表面には薄い感応膜があり、小さな球を何度も周回できることで高速・高感度での測定が可能になる。水晶は高温・高圧耐性があり、感度は従来の約100倍であるため新たなセンサー技術として応用できると見られる。
小型化に関しては、検出器に水晶体を使うだけでなく、試料が通過するカラムにも独自の技術を組み込んでいる。微小電気機械システム(MEMS)を活用し、流路長10メートルを縦43ミリ×横71ミリメートルの小さな基板に印字した「メタルMEMSカラム」を開発。ボールウェーブ研究開発部の岩谷隆光氏は「手のひらに乗るほど小さな検出器を実現できた」と強調する。
現在、宇宙用の超小型クロマトグラフィーを開発し、試作品を完成させた。国際宇宙ステーション(ISS)や有人与圧ローバーといった有人宇宙環境の大気中の有毒ガスをモニタリングする装置として設計。試作1号機で動作確認し、同2号機で主要な有毒ガスが許容濃度以下でも分析できることを確認した。
試作3号機は、これまで試料をカラムに運ぶためのガスに使っていた水素を空気に変更し、宇宙空間での安全性を高めた。メンテナンスもいらず、一つのシステムで複数のガスを分析でき、ISSで使われている装置よりも小型で軽量、省電力を達成した。
宇宙用の超小型クロマトグラフィーの製品化について岩谷氏は「すでに(水素を使った)地上用の小型装置を販売している。(水素を空気に変えた)宇宙仕様の装置が地上で用途があるかを検討しないといけない」という。一方、宇宙への応用は前向きで、宇宙空間で使えるかどうかをISSで実際に試験したい考え。将来は月などの有人宇宙探査の現場でも活用してほしいという。日本の新たな技術が宇宙に羽ばたく日も近いかもしれない。
(2024/11/29 12:00)
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