[ オピニオン ]

社説/産業の未来−明日はきょうの変革の先にある

(2015/11/13 05:00)

産業の歴史は、イノベーション(変革)の連続である。イノベーションとは必ずしも画期的な発明や、難度の高いジャンプアップではない。その背景には小さな変革の積み重ねがある。常に変化を尊び、挑戦する意欲を育てることが産業の発展の基盤となる。

米国の未来学者、アルビン・トフラーの『第三の波』刊行が1980年。同書で予言された情報革命は、今なお速度を増しつつ産業に変革を迫っている。それはマイクロエレクトロニクスやデジタル化といった狭い領域から、ビッグデータ利用やインダストリー4・0など広範なモノづくりの領域に及んでいる。

残念ながら、日本の産業界はこの巨大な変革を先導するに至っていない。情報革命の用語の多くがカタカナであることからも、日本勢が変化の波を理解することに精いっぱいであることが分かる。

だが、悲嘆に暮れていても状況は変わらない。ITとは単なる技術ではなく、創造に挑戦する土台に他ならない。今の世代の経営者が心がけるべきことは、こうした変革を志向する企業文化を育てることではないだろうか。

最近の日刊工業新聞の紙面で、新日鉄住金の今井敬名誉会長が「『失われた20年』という言葉が大嫌いである」と話している。「あの20年間で産業基盤の強化、海外での事業活動の拡大が進み、これからの日本の発展の礎になっている」という。誠に重みのある言葉だ。

小さなカイゼンを重ねて大を成したトヨタ自動車が、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車の変革の先頭にいることは、他の産業にとって重要な示唆となろう。トヨタが希有(けう)な例で終わるか、それとも日本企業の多くが変革の力を世界から認められるようになるか。明確に大きな分岐点があるわけではない。

未来の予見は難しい。しかし、明日は必ずきょうの変革の先にある。不変なるもの、安定しているものは頼もしく、時には美しくもある。だがそこに安住せず、日々に変革を志向することが未来を早く招き寄せるはずだ。

(2015/11/13 05:00)

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