[ その他 ]
(2016/4/5 05:00)
寒さが緩んだと思ったら、あっという間に桜前線が通過。今は東北地方を北上中だという。満開の花は美しいが、相も変わらぬ場所取り争いや他人の目を気にしない飲酒、宴のあとの大量のゴミに眉をひそめた方も少なくなかろう▼数年前、世界的な工業デザイナーである喜多俊之さんの「花見の会」に招待されたことがある。大阪市内の代表的スポットである大川(旧淀川)沿いに緋毛氈(ひもうせん)を敷き、紅白の幕を張り巡らせて日本古来の花見を再現した▼しかも主宰者をはじめとして参加者の多数は和服姿。琴の演奏まで付くという凝ったもの。樹の下で花をめでつつ、伝統的な花見弁当や和菓子を賞味し、おだやかに会話を交わす▼喜多さんは「ブルーシートにバーベキューでは、桜があまりにもかわいそう」と嘆く。確かに緋毛氈と紅白幕を背景にすると、心なしか花の色も一段と鮮やかに見えるから不思議だ。往時の粋人はこうして四季を実感し、折々の生活を楽しんだのだろう▼落語の「長屋の花見」まがいの騒ぎばかりになってしまった現代の花見の、何と貧困なことか。モノの豊かさだけでなく、ライフスタイルまで創出する本当のデザインが求められている。散りゆく桜を見つつ、そう思った。
(2016/4/5 05:00)