[ オピニオン ]
(2016/9/2 05:00)
最近、石油化学プラントの設備トラブルが相次いでいる。団塊世代の大量退職の影響を懸念する声もある。各社とも現場力の再点検が必要ではないか。
今夏は三菱ケミカルホールディングス傘下の三菱化学の鹿島事業所(茨城県神栖市)のエチレンプラントで定期修理が長引いた。旭化成と共同運営する水島工場(岡山県倉敷市)の同プラントも一時停止した。海外でも住友化学がサウジアラビアの合弁会社のエタンクラッカーが設備不良で6月から約1カ月間停止していた。
国内の2事例は、いずれも見落としや過信に起因するトラブルという。業界大手の社外取締役は「最近トラブルが多いのは確かで、実害が出ているので非常に問題」と危機感を強める。
アジア地域ではエチレンの需給が逼迫(ひっぱく)している。石油化学工業協会によると、国内のエチレン製造設備の平均稼働率は32カ月連続で90%を上回り、実質フル稼働が続いている。予定外のプラント停止は、誘導品を含む石化製品の商機を逸する事態となりかねない。
石化業界でも、IoT(モノのインターネット)やビッグデータなど先端技術の利用の検討が進んでいる。経済産業省は2016年度から、業種別のモデル実証に着手した。その有力候補が化学プラントの自主保安の高度化だ。センサーやロボットで設備状況を常時監視して、トラブルを未然に防ぐという。
ただ、どんなに精度の高いデータを集めたとしても、最終的に修理や部品交換を判断するのは現場の作業員だ。最新のITに頼る前に、現場力の向上のために保安体制を再点検する必要がないだろうか。
石化協は、企業トップが産業保安に強く関与することを提唱している。そのほか作業員の知識・感受性を強化する学習伝承、動機付けなどの地道な取り組みが有効だろう。
18年頃には、米国や中国からより安価な原料から製造した石化製品が日本へ流入してくる見通し。“黒船来襲”に備えて、まずは現場力という足腰を鍛え直すべきだ。
(2016/9/2 05:00)