[ オピニオン ]
(2016/9/13 05:00)
「人は城、人は石垣、人は堀」。名将の呼び声が高い戦国大名の武田信玄が起源とされるこの格言は、今の時代にも企業経営者らに多くの示唆を与えている。人の力、人の心こそが国の大事な礎であり、いかに堅固な城を築こうとも人をないがしろにしたり、その才能・持ち味を見誤ったりすれば、国は安泰でなくなる。この思想は人の上に立つ者にとって、重要な道しるべとなる。
近ごろ出光興産の創業家と経営陣の間で、昭和シェル石油との経営統合を巡る溝が深まっている。出光と言えば「人間尊重」の理念を柱とする“大家族主義”の経営で知られる。
創業家は、社風が異なる昭和シェルの従業員が家族になることに強い危惧の念を抱く。これに対して経営側は、統合の基本合意書で「出身母体にとらわれず、全社員が統合会社の社員であるという認識を持ち、業務を行えるような制度と環境をつくる」とした。
戦国の世さながらの激動期にある石油業界。この中で人を守り、生かすという経営者の心得を、どう具現化するかは大きな課題だ。出光は10月にも昭和シェル株を3割強取得し、統合の準備を本格化する意向。その前に立ちはだかる創業家との一大決戦が、刻一刻と迫っている。
(2016/9/13 05:00)