[ オピニオン ]
(2016/9/14 05:00)
三菱重工業、今治造船、大島造船所、名村造船所が商船事業で提携協議に入った。新造船価の低迷が続く中、リスク耐性を高める上でも正攻法といえる。過度の円高が是正され、韓国、中国との受注競争力が拮抗(きっこう)している今こそ、ピンチをチャンスに変える好機である。
海事産業を取り巻く環境は激変している。日韓の造船大手が業績悪化に苦しむ一方、海運需要の低迷で韓国最大手の韓進海運が経営破綻した。個々の企業の経営判断ミスもあろうが、構造改革の必要が顕在化しているのは明白だ。
日本船舶輸出組合によると、1―7月期の輸出船契約(一般鋼船)は前期比81・2%減の約230万総トン。昨年までの好調の反動減が厳しい。ただ中長期でみれば荷動き量の増加や既存船舶のスクラップなどで新造船需要の回復は明らかだ。
提携交渉入りした造船4社は九州、四国など西日本に拠点を構え、人事交流や共同調達を進めやすい。日本一の建造量を持つ今治造船はじめ、大島造船、名村造船など専業勢の強みは意思決定の速さと生産効率。ここに三菱重工のLNG運搬船や客船、特殊船などの技術力が加われば、大きなシナジーを生む可能性がある。
総合重工業とオーナー系専業との企業文化や就労体系、業務の隔たりは大きいだろう。ただ名村造船による佐世保重工業の子会社化、今治造船による幸陽船渠の吸収合併、三菱重工の商船事業分社など、事業再編をテコに成長を志向する経営マインドには共通する部分もある。
国交省の海事レポートによると、わが国造船業は85%という高い国内生産比率を保ち、国内調達率は91%に及ぶ。関連する船舶用機器メ―カーを含めた雇用は12万5000人規模で、造船所の立地する地域経済の中核を担う。政府は今後も事業再編や技術開発など、造船業界の競争力向上を後押しすべきだ。
三菱重工、今治造船ら4社の決断は、造船に限らずわが国産業界の未来投資にも一石を投じる。提携成功を“造船強国ニッポン”奪還の契機にしたい。
(2016/9/14 05:00)