[ オピニオン ]
(2016/11/23 05:00)
日本自動車殿堂(小口泰平会長=芝浦工業大学名誉学長)が設立15周年を迎え、これを記念して「日本自動車殿堂総覧第一巻」を刊行した。同殿堂は自動車産業の草創期から車社会の発展に貢献した人々を顕彰している。これまでの殿堂者70人の功績などをまとめた総覧は、900ページほどの大著だ。
20世紀初頭、米国のヘンリー・フォードが大量生産方式を確立し、今日の車社会の基礎を築いた。日本では大正のころから生産が始まり、1930年代に日産自動車やトヨタ自動車の前身企業が設立された。しかし第2次世界大戦で打撃を受け、本格化するのは戦後10年ほどたってからである。
高度経済成長期にはカラーテレビ、クーラーとともに“カー”が「3C」と呼ばれ、車社会が本格化。日本メーカーは排気ガス規制もいち早くクリアした。その結果、自動車産業は部品など関連企業の膨大なすそ野を形成し、輸出額の約20%を稼ぐ、日本の経済と雇用を支える基幹産業となった。
70人の殿堂者の功績をみると、先行する欧米の技術を取り入れながらも、単なるモノまねにとどまらず、独自の工夫を重ねて新たな境地を切り開いていった挑戦が描かれている。日本のモノづくりの神髄に触れる思いがする。また技術や経営だけでなく、学術や文化、スポーツ、交通安全など車を取り巻くすべての人たちが殿堂入りしており、今日の車社会に至った経緯がよくわかる。
そして今、地球環境問題を背景に車は内燃機関から電気や水素(燃料電池)に移ろうとしている。また自動運転技術も進化してきた。小口会長は「いずれ内燃機関は博物館に入り、自動運転で車はソファと同じになる方向は間違いない」という。
自動車は確実に新たな時代に向かって走りだした。新時代ではIT産業と合体するなど車メーカーの姿も変わるかもしれない。変化する時代に対応し、日本の自動車産業が環境と安全の性能を高めて今後も世界市場の覇者として君臨することを期待したい。
(2016/11/23 05:00)