[ トピックス ]

深層断面/紙リサイクル−エプソンが新手法、印刷した紙を3分で白く

(2016/12/1 05:00)

セイコーエプソンがオフィスで再生紙を作れる製紙機を月内に投入する。印刷した紙を3分で白い紙へ戻し、繰り返し利用できる。紙の新しいリサイクル方法として提案する。一方、世界的な紙需要の増加を背景に、森林破壊に歯止めがかからず、違法伐採による人権問題や健康被害が起きている。日本で紙の節約や古紙リサイクルは定着したが、紙をめぐる環境問題は解決されていないようだ。(編集委員・松木喬、梶原洵子)

  • セイコーエプソンのオフィス製紙機「ペーパーラボ A―8000」。コピー用紙を再生する

  • 使用済みのコピー用紙を投入(上)すると、3分後に再生紙が出てくる(下)

■水使わない製紙機投入

【紙利用に一石】

セイコーエプソンは、オフィス内で紙をリサイクルできる「ペーパーラボ A―8000」の出荷を開始し、紙の利用に一石を投じる。環境意識が高まる中、紙の利用は悪者にされがちだ。ペーパーレス化も進められているが、紙の使い勝手の良さもあり、完全にゼロにはできない。

30日に都内で開かれた製品発表会で、エプソン販売の佐伯直幸社長は「紙の未来を変えたい」と熱い思いを語った。

 ペーパーラボは、紙のリサイクルに不可欠な水を使わないことが最大の技術革新だ。通常は、紙を水でふやかして繊維にし、水を含んだまま形を整え、水分を飛ばして繊維を結合させる。一方、ペーパーラボは詳細を明らかにしていないが、機械的に紙を繊維に戻し、幅約3メートルの本体内を移動させながら結合素材と混ぜ、成形・加圧して紙にする。この技術があるからこそ、「従来の設備から装置のレベルまで小型化できた」(佐伯社長)。

これにより、オフィス内で資源を循環できる。紙1枚当たりに必要なコップ1杯分の水と、輸送によって発生する二酸化炭素(CO2)を減らせる。

A3やA4の使用済みコピー用紙を投入すると、A3、A4同の紙に再生。名刺用の厚紙、色紙にもできる。A4で毎時約720枚を生産する。

【価格が課題】

ただ、普及には課題が多い。価格は2000万円台前半と高い。安価に購入できる紙をリサイクルするためにどこまで負担できるのか。セイコーエプソンの碓井稔社長はこれまでも「コスト削減ありきの売り方はしない」と繰り返し言ってきたが、紙の購入コストの削減を期待される場合もある。

ペーパーラボのランニングコストはA41枚当たり0・45円と、紙の価格とほぼ同等。厚紙や色紙に再生すると、紙の市場価格よりも低コストになる。ただ、7年の耐用年数で回収するのは難しいところだろう。

【機密保護】

そこで、注目されるのは、機密文書を社外に出さずに繊維レベルまで完全に抹消する情報セキュリティー対策としての利用だ。ペーパーラボは、シュレッダーによる裁断よりも細かくできる上、裁断後は繊維が短くてできなかったリサイクルもできる。セイコーエプソンの市川和弘ペーパーラボ事業推進プロジェクト部長は、「マイナンバーなど機密書類を多く扱う自治体などにメリットがある」とみる。

環境対応や情報セキュリティーといった数字にならないものを認めてもらうことが、普及のカギ。エプソンは発売直後から導入する顧客をプレミアムパートナーとし、一緒に価値づくりに取り組む。

プレミアムパートナーには、長野県塩尻市や八十二銀行、カネカ、住友理工などが名乗りをあげた。小口利幸塩尻市長は、「機密書類の処理に使う。再生後の紙は折り紙などにして子どもの環境教育につなげたい」と話す。

ペーパーラボにとって発売はスタート地点。どんな価値をつくれるか注目される。

  • アカシアの植林地と紙パルプ工場(インドネシア・スマトラ島=ブルームバーグ)

■新たな社会問題−違法伐採、原住民と紛争

世界規模で森林破壊は進行し、00年から10年までの10年間で、日本の国土の1割に当たる面積の森林が世界から消失した。木材利用や火災もあるが、紙需要の増加も原因にあると考えられている。

インドネシアでは、原生林を大規模伐採したとして現地製紙会社が非政府組織(NGO)から非難される。生活の場を追い出された原住民との紛争が絶えないからだ。森林伐採が原因の火災も多発し、煙害が周辺国へ広がって健康被害も懸念されている。現地製紙会社は森林保護方針を宣言し、環境保全を始めた。

NGOは違法伐採を繰り返す製紙会社から紙を購入しないように、利用する側の企業に呼びかけている。違法伐採された森林資源の調達をリスクと考える企業も出てきた。購入を続けていると自然破壊や原住民への人権侵害に加担していると批判される恐れがあるからだ。

紙の問題を追求してきたWWFジャパンは13年、企業と「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム」を立ち上げた。「持続可能な紙」とは、生態系に配慮して適切に管理された森林資源が原料の紙。第三者が持続可能と確認した森林資源を使った認証紙もある。

コンソーシアムでは味の素、花王、カシオ計算機など8社が、製紙会社と意見交換しながら持続可能な紙を増やす方法を議論している。

WWFジャパンの古澤千明氏は「コンソーシアムの目的には紙を利用する企業、供給する企業の協力と連携がある。お互いが課題を理解する場となっている」と説明する。

日本人1人当たりの紙使用量は世界平均の3倍以上という。企業に紙の節約は定着したが、まだ減らせる余地はありそうだ。削減が限界なら、産地を意識して適切な紙を選ぶことで環境負荷低減に貢献できる。

■持続可能な利用例−産地を意識、適切な紙選定

90年代からオフィスで紙の削減に取り組んできたソニーもコンソーシアムのメンバーだ。活動が浸透し、削減の余地がなくなった00年代初め、使う紙を認証紙か再生紙にすることにした。同社CSRグループの石野正大マネジャーは「紙も有限な資源。どうしても使うなら環境負荷の低い紙にした」という。

紙の購入方針を掲げ、「封筒、名刺、製品のカタログ、取扱説明書など会社の発行物は、認証紙か再生紙のどちらからを優先的に使う」(ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズの大越大輔マネジャー)と徹底している。

紙の節約も継続している。海外向けの「ウォークマン」とヘッドホンには2―9カ国分の説明書をつけていた。言語にかかわらず理解できるイラストにして説明書を1枚にまとめ、15年度はウォークマンとヘッドホンの分だけで16・7トンの紙を減らした。

(2016/12/1 05:00)

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