[ オピニオン ]
(2017/1/10 05:00)
新産業を創出するイノベーションは、産学連携からどのように生み出せるのか。具体例のひとつに学びたい。
広島大学とマツダなどのグループが、文部科学省のセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムで成果を出した。同グループは感性や知覚の可視化という挑戦的なテーマに取り組んでいる。自動車のドライバーなどに装着できる脳波計を使い、脳活動の3要素を把握することで、人によって異なる“ワクワク感”を数値化するのに成功した。車内インテリアの質感評価や、窓枠とドライバーの注視しやすさも定量化した。
この成果は多分野への波及を期待できる。高級感や特徴的な質感の服飾や建築素材、魅力的な食品パッケージ、対応の優れたコミュニケーションロボットなど感性ビジネスのすそ野を大きく広げる可能性がある。
イノベーションは「技術革新」と訳されることが多い。しかし本来は、社会革新全般を意味する。広島大グループは、この成果を“ワクワク感”が低下したうつ病患者の診断や治療に応用するという。ある経営者はこれを聞き、社員のうつ病患者の低減に関心を寄せた。
同グループの取り組みには何点か特徴がある。まず広い範囲の異分野融合であること。今回の大学側のリーダーは、うつ病の医師でもある脳科学者だ。
また画期的な単一技術ではなく、組み合わせでイノベーションを実現したことも特徴的だ。“ワクワク感”の3要素のうち2要素と、人間が目にしたもののうち何に関心を持つかを解析したモデルはすでにあった。プラスアルファの開発で突破口を開いた形だ。
従来の感性工学は、被験者の主観をアンケートで問うものだった。企業側リーダーであるマツダ技術研究所の農沢隆秀技監は「この手法の限界を超えたかった」と話す。企業は一般に、試作品なしの基礎研究に興味を示さない。今回はマツダ側の熱意が、産業応用の道を開いたといえる。単純な共同研究を踏み越えたイノベーションへの意志を、そこに見いだせる。
(2017/1/10 05:00)