[ オピニオン ]
(2017/2/15 05:00)
立春は過ぎたとはいえ、まだ鍋物が恋しい季節。しかし野菜が高い。寒さで産地の作柄が良くないようだ。農林水産省の食品価格動向調査によると、鍋料理につきもののハクサイの全国平均小売価格は、今年に入って平年比4割高の水準で推移している。それでも昨年11月ごろには平年比2倍を超す値段だったことを考えると、かなりマシになった。さらに価格がこなれてきたのはダイコンで、1月には平年並みに落ち着いた。当面はおろしダイコンが主役の「みぞれ鍋」がお勧めだ。
ダイコンを主役にしたことで思い出されるのは昨年生誕300年を迎えた江戸中期の絵師、伊藤若冲(じゃくちゅう)が描く「果蔬涅槃図(かそねはんず)」(京都国立博物館蔵)。釈迦(しゃか)の入滅を描いた絵図の変わり種だ。
ふつう涅槃図は、絵の中央に横たわる釈迦を周囲の弟子たちや動物が悲しむ。若冲は白く気品のあるダイコンを釈迦に見立ててセンターに配置。たくさんの野菜や果物に取り囲ませた。見て楽しいだけでなく、私たちが口にする植物の多様性を尊び感謝する気持ちが湧いてくる。
釈迦が亡くなったとされる2月15日、寺院では涅槃図を飾って法要を執り行う。わが家では代わりに野菜をたっぷり入れた鍋を囲んで、恵みに感謝しよう。
(2017/2/15 05:00)