[ オピニオン ]
(2017/6/7 05:00)
「煙草(たばこ)は、本来、日本になかった植物である。(中略)悪魔が、どこからか持って来たのだそうである」(芥川龍之介『煙草と悪魔』)。
悪魔はキリスト教と一緒に日本に伝来したが、当時は誘惑すべき信徒がいない。園芸でもして暇をつぶそうと考えた。植えた種が見事な葉をつけた頃、通りがかった商人の魂を狙って賭けをする。勝負は知恵を働かせた商人が勝ち、悪魔から畑を奪う。それがタバコ畑だった。
近年、愛煙家はどんどん居場所がなくなっている。東京五輪・パラリンピックを控え、東京都議選では小池百合子知事が率いる地域政党・都民ファーストの会が受動喫煙対策として原則、屋内禁煙にすることを打ち出している。
もちろん、たばこが健康に良くないことは明らかだ。しかし最近では、煙が少なくタール分はゼロ、ニコチンだけを摂取できる電子たばこでさえ、受動喫煙対策の俎上(そじょう)に上っている。“たばこ”と名のつくものは、残らず排除してしまえという雰囲気だ。
悪魔は商人の魂を奪えなかった代わりに、喫煙の習慣を日本に持ち込んだ。作者の芥川は「ころんでも、ただは起きない」と評している。今の禁煙論議を悪魔が見ていたら、さぞ悔しがるに違いない。
(2017/6/7 05:00)