[ オピニオン ]
(2017/6/28 05:00)
立山連峰のひだに残っていた雪が深緑へと移ろい、富山の夏の扉が開き始めた。これから一斉に咲く高山植物をめでる登山客で麓はにぎわうだろう。
水、電力、観光資源―。豊かな恵みをもたらす立山連峰だが、開発者には容赦なく牙をむく。1940年に旧日本電力が完成させた黒部川第三発電所の建設では滑落、雪崩、そして熱で犠牲者が300人を超えた。
水路や軌道を通す隧道(トンネル)工事で最高温度166度Cの岩盤を貫いた。作業員は谷川から吸い上げた水を浴びながら岩をうがつが、熱中症で次々と倒れた。〈かれらの尻や足は何度か皮膚がはがれ、それがどす黒く変色していた〉。凄惨な現場は吉村昭が『高熱隧道』(新潮文庫)で描き、世に伝わった。
その隧道を受け継いだ関西電力が、富山県と熱い議論を交わしている。隧道を介して黒部峡谷から、さらに奥地の黒部ダムに至るルートは、関電が公募した見学客らに公開している。旅行商品化を求める県に対し、関電は安全上の課題を挙げる。
今も熱と硫黄臭を放つ隧道は先人の辛苦をしのばせる。名所としての価値は高い。多大な犠牲で得た山の恵みを広めることも安全確保も共に貴重だ。議論の出口で両立の知恵を得たい。
(2017/6/28 05:00)