[ オピニオン ]
(2017/7/7 05:00)
産業界の希望は、日本が質の高い包括的な貿易・投資の協定を多くの国と結ぶことである。欧州連合(EU)との新たな関係を、わが国の通商戦略再構築の契機としてもらいたい。
日EU間の経済連携協定(EPA)が大枠で合意した。ここに至るまでの関係者の努力を評価する。EU側が英国の離脱による経済規模の縮小や、さらなる分裂を恐れ、日本との通商関係強化を急いだことも交渉にプラスとなった。
日本にとってEUは輸出入総額で約10%、第3位の貿易相手だ。EPAが発効すれば、韓国より劣勢に立たされていた自動車関税などの障壁がなくなる。
これまで日本の通商戦略の要であった環太平洋連携協定(TPP)は、米国が加わらないことにより、その効果を著しく減殺された。EUとの関係はTPPの穴を埋めるものではない。しかし日本の通商戦略にとっては重要な意味を持つ。
国内資源だけで国民を養えない日本は、自由貿易体制の恩恵を最も受けてきた国だ。とはいえ新興国が経済力・技術力をつけてきた中で、旧来の加工貿易立国戦略だけでは勝ち残れない。投資やサービス、人の移動など広範な内容を規定する質の高い協定が求められる。
細目はこれからだが、EUとのEPAはTPPの水準には及ばない。例えば最終段階で日本が譲歩したチーズの低率関税枠も、TPPで合意している乳製品の関税率引き下げや撤廃ほどの規模にはならないだろう。しかし全体的には、先進国・地域同士の通商協定と呼ぶにふさわしい包括的な内容だ。
日本は中国、韓国との自由貿易協定や、アジア諸国を含めた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉を進めている。今回のEUとのEPA合意に加え、米国を除く11カ国でTPPを発効させることがRCEP交渉に有利に働き、協定の質を高めることにつながろう。
そうした努力を重ねつつ、米国の通商方針の転換を待って新たな関係を模索することが望ましい。産業界も、それを期待している。
(2017/7/7 05:00)