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(2017/9/1 05:00)
~ビジネス・システム・イノベーションの時代~
モノづくりやサービスの分野でIoT(モノのインターネット)が注目される中、産業界にはIoTへの期待とともに、不安や疑問なども渦巻いているようです。「産業革命」とも言われるこのトレンドを企業の経営戦略にどう生かしていけばいいのか-。国内外のIoT事情に詳しい野村総合研究所主席研究員の藤野直明氏に寄稿連載の形で解説していただきます。(隔週金曜日に掲載)
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IoT・第4次産業革命に対する関心が高まり、試行的な取り組みが日本でも始まった。一方、日本の製造業の“現場”からは“今ひとつ腑に落ちない”という指摘がなされることも多い。製造設備にセンサーを付けて(IoT)データを蓄積、分析(ビッグデータ)、予防保全が人工知能(AI)で一部可能となったとしても、それだけでは製造原価低減へ効果は小さい。
そもそも価格に占める部品や資材を除いた純粋な製造原価は10%を下回るケースが普通である。製造原価改善を目的として働く“現場”が腑に落ちないのも無理は無い。
IoT・第4次産業革命は、センサーやIoT・ビッグデータ、人工知能を活用して製造原価を改善することではない。もともとドイツの産業政策、もしくは欧米製造業の経営戦略として考案されたIoT・第4次産業革命は、ビジネスモデルや経営戦略の視点から、いわば「ビジネス・システムのイノベーション(技術革新)」として理解することが必要なのである。
本連載では、経営戦略として「IoT・第4次産業革命」を考える視点を提示したい。結論をあえて先取りすると次の7点に要約できる。
(1)第4次産業革命は、関連するソフトウェアを含めた製造設備産業のモジュール構造の設計、およびモジュール間インターフェースの国際標準化を推進する、いわゆる産業政策としてのオープンイノベーション戦略である。1990年代半ばにPC産業で起きたことと同様の産業構造の“解体と再構築”を政策的に実現しようしているとみると容易に理解できるかもしれない。
(2)この結果、かつてのPC産業と同様、現在の製造設備産業の産業構造の“解体と再構築”が起こり、プレイヤーの転換が起きることが予想される。
(3)具体論としては、グローバルな工場群を円滑に運営するための「スマートなマザー工場」と、製品設計・生産準備・製造プロセス設計・アフターマーケット・保守などの製造ノウハウをサービス事業として提供する「製造プラットフォームサービス事業」との2つが重要である。
(4)事業への本格的な影響は3年から5年後である。競争環境が激変することが予想される。製品市場では、先進国の製造ノウハウを装備した新興国製造業との競争、資本市場では新興国の成長を内部化し株式時価総額を拡大した先進国製造業との競争となる。
(5)IoT・第4次産業革命の影響は製造業に留まらない。残念なことに日本にいては観察できないが、物流産業、流通業、アパレル産業、エネルギー・交通基盤やスマートシティなどを含む社会基盤産業などでも、既に大きなイノベーションがはじまっている。
(6)日本の製造業は、1980年代の“ものづくりの成功体験”の逆襲により、冷静で科学的な議論が難しくなってきているようにみえる。この結果、未だ正確な状況把握ができていない企業も多い。先の大戦での“失敗の本質”と同様の過ちを犯しているようにみえるというと誇張し過ぎであろうか。
(7)今こそ、企業の長期戦略の検討、そのための次世代の役員会議の組成が効果的である。構造変化が大きい場合は、“できるところからやる”というやり方では、適応できない。
よく耳にする意見として、「欧米はトップダウンでガチガチのオートメーションを志向する。日本は、ボトムアップで、現場の人を重視し、現場からの改善活動を主体に、人を大事にし、人に優しいエンジニアリングを行う。欧米の真似や後追いをしても日本の競争優位は維持できない」というものがある。本当にそうだろうか。
欧米先進国やアジアの優れた企業は「“優れた日本の現場力の強さ”を研究し、ビジネスモデルとして形式知化・組織知化し、限界費用ゼロのソフトウェアを活用して、オープンイノベーションという産業進化の構造を実装し、さらにはファイナンス市場での戦略までを一貫した経営戦略として実現」しているようにみえる。
希望的観測や過去の成功体験から判断を誤ってはいけないと強く感じる。危機感を共有いただければ幸いである。
【著者紹介】
(2017/9/1 05:00)