- トップ
- 中小・ベンチャーニュース
- 記事詳細
[ 中小・ベンチャー ]
(2017/9/30 08:00)
先進技術を開発するスタートアップが集まる米シリコンバレー。世界のイノベーションをリードするこの地域で、日本企業を見直す動きが進んでいる。これまで日本企業と組もうとしても、最初の動きだしが遅いとの理由でイメージを悪くしていたが、ここに来て、シリコンバレーのスピード感に対応する企業が徐々に増え、モノづくりに向かう真摯な姿勢が好感されるなどし、あらためて評価されだしたという。今後の企業存続にオープンイノベーションが欠かせないとの意識が世界中に浸透する中、日本でもシリコンバレーのスタートアップの力を取り込もうとする動きが広がっている。双方が互いの力を求める今、まさにコラボーレーションの好機が訪れている。(編集委員・碩靖俊)
中国企業リスクの認識広がる
スタンフォード・シリコンバレー–ニュージャパン・プロジェクト(SV-NJ)プロジェクトリーダーを務める米スタンフォード大学アジア太平洋研究所の櫛田健児氏(政治学博士)は、「中国企業と組んでもなかなか上手くいかない、あるいはリスクが多いというところが、シリコンバレーで認識されるようになってきた」と、シリコンバレーの見方を代弁する。
最初の動きが早くても、製品の開発などをめぐり、想定通りの仕上がりになっていないなどでやり直しが多く、結局、予想以上に時間がかかった例が増えているという。
これに対して、日本企業には「初動がきわめて遅いものの、いったん組むと誠実で技術力がある。納期をきちんと守るし、一緒に仕事しやすいとの声があちこちで聞かれる」(櫛田氏)。
日本でもオープンイノベーションを目指して、“シリコンバレー熱”がますます高まっている。日本貿易振興機構(ジェトロ)などによると、シリコンバレーがある米カリフォルニア州北部のベイエリア(サンフランシスコ湾岸地域)に進出した日系企業は、2010年以来増え続け、16年に770社(14年の前回調査比7%増)となり、過去最多を更新。シリコンバレー、日本の双方で協業を求める雰囲気が醸成されている。
カギはオープンであること
「シリコンバレーのスタートアップは、初めからベストなパートナーとの協業で世界のトップを目指したいという気概がある」。こう話すのは、コニカミノルタ取締役会議長の松﨑正年氏。同氏はシリコンバレーの事情に詳しい。「これまでシリコンバレーといろんな接点を持ちながら、キャリアを積んできた」。
松﨑氏によると、 シリコンバレーのスタートアップは世界中の企業と協業することで自社に足りないモノを補完し、技術の価値を高めていく特徴がある。
そのため、高い技術力など相手先を惹きつける魅力を持つ日本企業にとっては、相手先が求める要件に関心さえ持てれば、協業のチャンスは幾らでも生まれるという。
そもそもシリコンバレーのスタートアップは、世界中から人材が集まり起業しており、異なる国や文化で育った人たちとの協業に慣れている。それだけに「日本の企業がオープンでありさえすれば、こんなに協業しやすい相手はない」と話す。コニカミノルタではオープンイノベーションの促進に向けて、世界5か所にビジネスイノベーションセンターを設置。そのうちの一つはシリコンバレーにあり、スタートアップとの協業や投資を進め、新規ビジネスの創出につなげている。
意思決定のスピード
シリコンバレーのスタートアップとの協業で、しばしば好例として取り上げられるのが、コマツと米スカイキャッチ(サンフランシスコ)のケースだ。
コマツは、ICTを使って安全で生産性の高い建設現場を可能にする「スマートコンストラクション」をめぐり、ドローンで建設現場を空撮して測量やデータ解析を行うスカイキャッチとの連携を検討。14年11月に協議を始め、15年1月には早くも協業開始にこぎつけた。
櫛田氏によると、話し合いを始めてから協業がスタートするまでの3か月という期間は、シリコンバレーのスタートアップが日本企業に抱いている印象とはまったく異なる圧倒的な速さだったという。コマツCTO室技術イノベーション企画部長の冨樫良一氏は「(コマツは)決定権を持っている人たちの動きが早い。やると決めたら垂直立ち上げで進める社風がある」とし、こうしたスピード感が同社の中では特別ではないといった様子だ。
「楽天の三木谷浩史さんやソフトバンクの孫正義さんは、本人が直接シリコンバレーにやって来て、その場で何でも決断するので、シリコンバレーのスピード感に合っている」。櫛田氏は著書『シリコンバレー発アルゴリズム革命の衝撃』でこう指摘する。
日本企業がシリコンバレーのスタートアップと円滑に協業するには、現場の担当者が持つ権限を広げるなどし、現地のスピードにキャッチアップすることがカギになりそうだ。
(2017/9/30 08:00)