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[ 科学技術・大学 ]
(2017/10/5 05:00)
―米国留学後、1973年に米メルクとの共同研究で研究室を立ち上げました。産学連携の先駆けです。
「研究者が強みを持たないと、企業が資金を出すはずない。資金を頂く以上、覚悟が必要。『資金源として国が頼れなくなったから企業に頼る』というのでは、『連携』でなく『依存』だ。私が国に頼らない研究室経営をしてきたのは、私大が国から相手にされなかったからでもある」
―産学連携といいつつ、企業の“実験代行”に甘んじている研究室も少なくありません。学生の教育と両立できるのでしょうか。
「私は学生を共同研究に巻き込んだことはない。メルクの資金8万ドル(当時約2000万円)で博士研究員(ポスドク)を雇い、研究に打ち込んでもらった。機密管理の必要な研究は職員だけで独立して進めた。学生には別のテーマを与えた。微生物から化合物をみつけたら、すぐに製薬会社に渡すわけではない。化合物の分離法や新規化合物の抗菌性解析、酵素阻害活性評価、毒性評価など、それぞれが重要な技術。まだまだ研究することは多い」
「学生の研究から有望な技術が出れば、企業と一緒に研究する。そうした例は他の学生にとっていい刺激だ。まず人を育てなければいい研究はできない。私は若手には1年間の留学資金を与え、『1年頑張って研究すれば、必ず留学先が給料を出して雇ってくれる』と激励して送り出す」
―基礎研究こそ大学の本分という声には。
「基礎と応用、大学はどちらを研究すべきかという議論は研究の本質を捉えていない。研究を通して何か世のためになることを成そうと思えば、基礎も応用も必要だ。『金がないから何もできない』という人は、金があっても何もできない。10万円しかなくても、10万円でできる最高の成果で力を示すことだ」
―山梨科学アカデミーの創設など、理科教育の発展に力を入れてきました。
「国には『大学関連予算を多少削ってでも、小中学校の理科教育を充実してはどうか』と提案してきた。教師が知識を教えるだけではなく、生徒に実験や研究を経験させ、科学の魅力を伝えてほしい。そうすれば理科離れを止められる。なかなか理解されないが、山梨県では20年以上有志で続けてきた。教育は必ず返ってくる。教育ほど確実な投資はない。ただ大学の教育無償化には賛成しかねる。確かに本当にやる気がある人、経済的に困窮している人には支援が必要だ。ただ、大学に通うことが目的ではない。大学で何を学ぶか、その動機をかき立てるところに投資してほしい」
(次回から随時掲載)
【記者の目/研究成果、経営手腕が奏功】
若手研究者に他にない強みを持つこと薦める。ただ大村氏の場合は特定の技術や化合物特許より、その経営手腕をメルクに買われた。留学先で教授に代わり学生やポスドクの面倒をみたことで信用を得た。そして成果を出し続け、3年契約だった共同研究を20年続けた。その手腕は北里研究所の再建や故郷・山梨の振興にも生かされている。(小寺貴之)
(2017/10/5 05:00)